「ぬうううううううう!!」
金剛が棍を振り下ろす。
俺はそれを刀で受け止めた。
「ぐ……!」
重い一撃だ。
だが、今度は吹き飛ばされない。
「……!?」
金剛は驚いた顔をする。
彼は大男であり、鋼の肉体や剛力を活かした戦い方が得意なようだ。
だが、チートによって強化された俺ならば、それに真っ向から対抗することができる。
「馬鹿な……! こんなことはありえん……!!」
金剛が動揺している。
このまま一気に勝負を決めたい。
しかし、そう上手くはいかないようだ。
彼はまだ勝負を諦めていなかった。
「この手は使いたくなかったが……」
金剛は呟く。
そして、懐から布切れを取り出した。
「それは……?」
「これは例の娘っ子のふんどしだ。雷轟殿の刀で切り裂かれた、な……」
「……!」
俺は動揺する。
娘っ子――つまりは桔梗のふんどし……!?
「さらわれた武神流の跡取り……。まさか、無事だとでも思っていたのか?」
「な、何だと……?」
「雷鳴流師範の雷轟殿が武神流の跡取りを孕ませれば、二派は完全に融合する。融合せざるを得ない。雷鳴流は武神流の技術を取り込み、勢力を拡大する。雷轟殿は、桜花七侍としてより一層の貢献をしていくことができる」
「……」
「雷轟殿は、武神流を潰すことによる利益を景春様に説明した。それを受け、景春様は我に命じられた。武神流を潰せとな……!」
「くっ……! どこまでも腐った真似を!!」
俺は怒りに震える。
桜花藩の政治事情について、まだ理解しきれていないことも多い。
だが、多少の事情は把握している。
桜花七侍だった武神流師範は、代替わりした藩主に疎まれてしまったのだろう。
武神流師範は桜花七侍の任を解かれ、代わりに雷鳴流師範が桜花七侍に任じられた。
雷鳴流師範の方は、武神流師範とは違って新藩主である景春に気に入られている。
そのような事情があり、結託して武神流を潰そうとしているのだと思われる。
「理解したか? 貴様が我を打ち倒したところで、手遅れなのだ。娘っ子を孕ませてしまえば、それで終わりだからな。既成事実というやつだ」
「……っ!」
俺は歯ぎしりする。
桔梗は責任感のある頑張り屋さんだ。
そんな彼女の心を、この卑怯者たちは気にもとめていない。
「……そうか。お前は、ここで死ね」
「なんだと?」
俺は刀を構える。
心の底から、何か黒い感情が溢れてくる。
この気持ちはなんだろう?
視界に映らないドス黒いオーラの流れが、マグマのように煮えたぎっている。
ひどく危うい感情だが……今はそれに身を任せよう。
俺は大きく深呼吸し、刀に闇のオーラをまとわせる。
そして、居合の構えを取った。
「一刀流居合――」
「さっきも見せた居合術か? 無駄だ。同じ技は我に……」
「――死屍累々!!」
俺は刀を振り抜く。
すると、黒い斬撃が金剛に向かって放たれた。
「……っ! ぐはっ……!!」
俺の放った斬撃は金剛に命中する。
そして、その肉体に深い傷を刻んだ。
「お、おのれ……!」
金剛は出血する傷口を押さえる。
かなりの深手だが、致命傷ではない。
俺は追い打ちをかけるべく、再び居合の構えを取るが――
「そこまでにしておけ、金剛よ」
突如として、その場に第三者の声が響き渡ったのだった。
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