「ほー。これが防壁か」
俺は人魚の里に来てから初めて、外周部にやって来た。
まだ地理をじっくりとは観察できていないが、ざっくりとした構造は分かりつつある。
里の中心付近に王宮があり、その周囲には様々な施設がある。
さらにその外には一般居住エリアが広がり、リリアンが勤める治療岩もある。
ちょっと離れたところには、俺が寝泊まりしている『海神の大洞窟』が位置しているはずだ。
そしてさらにその外周部に、防壁がある。
人魚の里は、いわば『人魚のみが存在を認知して行き来できる海底の秘密エリア』とも言えるだろう。
「ふむ……。防壁の大部分は、天然の巨大岩石を利用しているようだな。こっちは被害がないようだ」
俺は巨大岩石をペチペチと叩きながらつぶやく。
なかなか良い硬度だ。
リトルクラーケンであっても、これをどうこうすることは難しいはずだ。
人魚の里の成り立ちは聞いていないが、想像はできる。
いい感じに配置されている巨大岩石を見つけ、その隙間に里を造り上げたのだろう。
それだけでも、外敵から身を隠す効果は大いにある。
そして里が発展するにつれ、巨大岩石の隙間を埋めるように物理的な防壁が造られ、結界魔法も併用された。
人魚族は安全な住処を確保しつつ、必要に応じて戦士たちが外へ狩りに出かける……。
そんな感じで、人魚族が現在まで生活してきたのではないだろうか?
「だが、その防壁も今はこの通りか」
俺は無惨な姿になってしまった防壁を見やる。
エリオット王子の話によれば、襲撃してきた魔物に壊されたらしい。
天然の巨大岩石は無事だが、隙間を埋めていたであろう人工の防壁は見るも無残な状態だ。
これでは、魔物に素通りされてしまう。
今は人魚の作業員や戦士たちが修復作業を行っているらしい。
「とは言え、応急処置のようだがな」
俺はそうつぶやく。
力仕事で頼りになる戦士たちの多くは、魔物との戦闘で負傷した。
治療を受けたとはいえ、完治はしていない。
俺が治療魔法を施した戦士たちだって同じだ。
いくら高出力の治療魔法でも、限界はある。
命に別状のない状態まで回復させるのが、一つの区切りだった。
短期間に回復させすぎるのは体に別の負担がかかるし、仮に外傷が完治したとしてもいきなり肉体労働は避けた方がいい。
7割方まで回復させたところで治療終了とし、俺はこうして防壁修理の手伝いにやって来たというわけだ。
「よーし! 次はこの岩をあそこまで運ぶぞ!!
「おっしゃーー!!」
「任せろーー!!」
現場の方から、威勢の良い声が聞こえてくる。
人手は不足しているらしいが、限られた人数で何とか頑張っているようだ。
「さて、俺も――」
「おう、兄ちゃん! ボサッと突っ立ってねぇで、さっさと手伝えぃ!!」
「へ?」
突然の呼びかけに、俺は間の抜けた声を上げてしまう。
声がした方を見れば、巨大な岩石を背負った男たち……人魚の作業員たちが俺を見ていた。
「やる気がないなら、さっさと失せな! 邪魔なんだよ!!」
「手伝ってくれるって話は聞いてるけどな! 半端な手伝いは逆に邪魔になる!」
「人族だからって特別扱いはしねぇぞ!!」
威勢の良い声が次々と飛んでくる。
それを聞いて、俺は――。
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