今日は狩り勝負の3日目だ。
昨日チンピラ達に言われた通り、冒険者ギルドへと向かう。
既にチンピラ4人組は待っていた。
「おっ、逃げずに来たな」
「くっくっく。どこの狩場に向かうのだ? 北の草原か?」
「いえ、西の森に向かいます」
「なんだと? 2人で西の森で狩りができるってのかあ? 俺達を戦力として期待してんなら甘いぞ」
「くっくっく。今日の俺達はあくまで見張り役。戦闘には極力手は出さない」
「ええ、大丈夫です。私達2人で戦います」
彼らは俺達が2人で西の森で狩りをしていることが信じられないようだ。
まあ確かにファイアートルネード頼みのところもあるが。
彼らを連れて、街を出る。
2時間ほど歩き、森の端に入る。
あまり深くには入らないで索敵していく。
しばらく索敵していると、横の茂みからハウンドウルフの気配を感じた。
次の瞬間、奴はチンピラの1人に跳びかかっていた。
チンピラもなかなかやるようだ。
落ち着いて盾で防いでいる。
「おい、俺達は戦闘に手を貸さねえ。こいつをお前らで討伐してみろ」
そう言ってチンピラはハウンドウルフを盾ではじきとばし、距離をとった。
他の3人も同じく距離をとっている。
ここは俺とミティの2人で戦う必要があるようだ。
「ミティ、いつものように俺が攻撃を引きつける。隙を見つけてハンマーで攻撃してくれ」
「分かりました、タカシ様」
俺は剣で堅実に攻撃していく。
奴が距離をとったらファイアーアローで追撃する。
奴の意識が俺に向いたところで、ミティの一撃。
もう慣れたものだな。
無事にハウンドウルフ討伐が完了した。
「ほー。なかなかやるじゃねえか。ハウンドウルフ1匹程度は問題ないということか」
「くっくっく。しかし群れ相手ならばどうかな? 見物だ」
チンピラが話しかけてくる。
ちょっとは認めてくれたようだな。
続けて索敵していると、開けた場所でゴブリンの群れと遭遇した。
ファイアートルネードの出番だ。
魔力のステータスが上がった分、威力や範囲の微調節がしやすくなっているようだ。
彼らの度肝を抜くために、威力はやや大きめにしておこう。
その代わり、森林火災にならないように範囲を小さめに意識する。
心の中で詠唱を開始する。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
ごうっという音と共に大きな火の竜巻が発生し、ゴブリンを襲う。
威力を高めにした成果が出た。
範囲内にいたゴブリンは全てが一撃で息絶えている。
ただし、範囲を小さめに意識した分、生き残ったゴブリンもそこそこ多い。
生き残ったゴブリンに限ればほぼ無傷だ。
ゴブリン達がこちらに走り寄ってくる。
まずはミティに投石で数を減らしてもらう。
ミティのレベリングのためだ。
岩と言ってもいいような大きさの石を投げつけている。
俺もファイアーアローで少しだけ数を減らして調節する。
ゴブリンがこちらにたどり着いた。
もうずいぶん数が減っている。
俺はサポートに回る。
ミティをメインとしてゴブリンを討伐していく。
無事にゴブリン討伐が完了した。
チンピラ共を見ると、あぜんとした顔をしている。
「お、お前、今の魔法はなんだ?」
「ただのファイアートルネードですが」
「ファイアートルネードぐらい知っている。しかし今のは威力が半端なかったぞ。ただのファイアートルネードじゃねえな」
「くっ。そもそもなぜ中級の火魔法を使えるやつがDランクなんだ。そんな話は聞いてないぞ」
「なぜと言われましても……。半月でDランクになったというお話はしましたよね? 私が冒険者ギルドに登録したのが半月前。経験不足ということでDランクに留まっているのですよ」
「ちっ。なるほどそういうことか。そっちのドワーフ娘の力も相当なものだった。いいだろう。イカサマはしていなかったと認めてやる」
「くっくっく。しかしまだ勝負はついておらんぞ。今から俺達は別行動をとり狩りをする。今日の夜に冒険者ギルドで待っていろ」
そう言って彼らは行ってしまった。
なんとか認めてくれたみたいだな。
特に襲われたりもせず無事に済んで良かった。
ここからは俺とミティでいつも通りの狩りだ。
ゴブリンとハウンドウルフを中心に狩っていく。
そして開けた場所でクレイジーラビットの群れと遭遇した。
昨日まではやり過ごしていた相手だ。
よし、ファイアートルネードの出番だ。
魔力強化を取得した今ならば上手く倒せるだろう。
心の中で詠唱を開始する。
クレイジーラビットの群れを包み込むように範囲をイメージする。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
ごうっという音と共に大きな火の竜巻が発生し、クレイジーラビットを襲う。
イメージした通り、全てのクレイジーラビットに命中したようだ。
数匹程度の生き残りがいるが、問題はない。
こちらに近寄ってくる間に俺のファイアーアローとミティの投石で数を減らす。
こちらまで到達した奴らは剣でさばく。
無事にクレイジーラビット討伐が完了した。
クレイジーラビットを無傷で討伐できるようになったのは大きいな。
しばらくは西の森を拠点にするのがいいかもしれない。
いや待て。
そろそろ東のゾルフ砦に向かった方がいいな。
ミティのレベルも十分に上がったし。
砦防衛への加勢でスキルポイントが20入る。
それで火魔法をレベル5にし、ミッション報酬の中級者用装備等一式が手に入る。
その後もしばらく狩りを続ける。
新たな標的を求めて索敵していると、悲鳴が聞こえてきた。
おそらくチンピラ達の声だ。
そんなに遠くではない。
なんだ?
彼らが魔物にやられたのか?
しかしハウンドウルフの奇襲を防いだ動きを見る限り、なかなかの実力を持つように見えたが。
チンピラとはいえ、見殺しするのも後味が悪い。
急いで声が聞こえたほうに向かう。
近づくにつれて、強烈な悪臭がしてきた。
くっせええええ。
おならみたいなにおいがする。
目から涙があふれてくる。
なんとかそのにおいに耐えながら彼らのいる場所にたどり着く。
そこにはある意味で地獄のような光景が広がっていた。
木の上で大きいサルのような変な魔物が排便している。
においの元はあれか……。
そしてチンピラ共の足元には謎の汚い物質が散らばっている。
あれはおそらく……ゲロだな。
このにおいにやられたんだ。
というかあの悲鳴は単に臭かっただけかよ。
チンピラは4人共ピンピンしている。
においに苦しんでいる様子ではあるが。
油断していたら俺ももらいゲロしそうだ。
必死でこらえる。
そういえばスキルに「嗅覚遮断」なんてのもあったな。
わざわざ五感の1つを封じてどうすんだよと思ってスルーしていたが。
こういうときに役立つのか。
今俺はスキルポイントが10ある。
嗅覚遮断を取ってしまおうか?
いやいやダメだろ。
火魔法レベル5が遠くなる。
ここは気合で我慢するしかない。
早いところミティを連れてこの場から離れよう。
ミティもつらそうだし。
そういえば何でチンピラ共は逃げないんだ?
臭いとはいえ、身動きが取れないほどではない。
さっさと離れればいいのに。
俺はその場から離れようとする。
チンピラ達から制止の声がかけられた。
「待で。こいつは本来この西の森にはいないはずのスメリーモンキーだ」
「ぐっぐっぐ。俺達で討伐しておいた方がいい。幸いこいつの戦闘能力はさほどでもない」
無理に笑おうとするなよ。
半分むせて変な笑い方になってるぞ。
スメリーモンキーを討伐すればこの場から離れられる。
奴は木の上にいるから、チンピラ達は手が出しにくかったようだ。
ていうかいつまで垂れ流してんだよこのクソザルが。
しかし俺にとってはチャンスでもある。
奴が油断している隙に火魔法を叩き込む。
せっかくだ、今まで使う機会のなかったレベル4の火魔法を使ってみよう。
ちょうど奴とは高低差のある位置取りだから、俺の火魔法は斜め上の空に向かって撃つ感じになる。
森林火災の心配はいらないだろう。
心の中で詠唱を開始する。
む、少し詠唱時間が長くなりそうだ。
やはりレベル4魔法ともなればそうなるか。
レベル5になれば当然さらに長いだろう。
スキルポイントに余裕ができたら詠唱時間短縮のスキルを取っておいたほうが良さそうだ。
心の中で詠唱を続ける。
長めの詠唱もそろそろ終わりそうだ。
そう思って油断していると、奴が自分の便をつかんで投げとばしてきた。
強……!
速…
避……
無理!!
受け止める
無事で!?
出来る!?
否
死
と、できることなら白の賢人を出したかったが、俺にはそんな能力はない。
まあしょせんただの便だ。
臭くて汚いが、死ぬことはない。
内心は死ぬほど嫌だけど、仕方ない。
仕方ないんだ。
諦めて便まみれになることを覚悟する。
しかしそこへチンピラ4人が跳びこんできた。
人間バリアとなり、俺を便から守ってくれた。
「へっ。俺達には構わず、でっけえ火魔法で奴をしとめろ」
「くっくっく。俺達の敵は必ず討ってくれ」
一見かっこいいセリフだが、便まみれで言ってるから台無しだ。
しかしお前らの思いは無駄にしないぞ。
俺の火魔法で奴を消し炭に変えてやろう。
右手で握りこぶしをつくる。
標的に向かってこぶしを突きだし、魔法を発動させる。
「ボルカニックフレイム!」
まるで火山から噴き出したかのような激しい火炎が奴を襲う。
火炎の速度も速い。
奴は必死に避けようとするが間に合わない。
火炎がほぼ直撃し、奴は倒れた。
さすがはレベル4の魔法、かなりの威力だ。
しかしまだかろうじて息はあるな。
「ミティ、投石でとどめを刺すんだ」
「はい、タカシ様」
一応レベリングのためにミティにも攻撃しておいてもらう。
ミティの投げた石が奴に直撃する。
奴はもう全く動かない。
さらにチンピラ達が近寄って首を切り落とした。
こうしてスメリーモンキーの討伐は無事終了した。
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