チンピラ集団『海神の怒り』と若手兵士集団『海神の憤怒』。
彼らが俺に絡んできている。
暴力であれば、魔法師団の分隊長であり要人警護を命じられているヨルクの出番だった。
しかし、彼らが企んでいるのは単純な暴力ではない。
「さあ、人族さんよ! この料理たちをどうにかしてもらいましょうかねぇ!!」
チンピラ集団のリーダー格の男が言う。
その手には、『海ぶどうのサラダ』が載った皿があった。
「おいおい、それはただのサラダだろ? わざわざ、どうして食べなくちゃいけない?」
俺はそう返す。
これまでにたくさん飲み食いして、満腹気味なんだ。
まぁ、食べられないことはないが……。
デザートとかもあるだろうし、もう少し温存しておきたい。
俺の答えを聞いた男は、嘲笑の表情を浮かべた。
「はははっ! やはりそうか! 人魚族に友好的とか言っても、食文化を理解するつもりはないらしいな!!」
「何……?」
俺は眉をひそめる。
男は続けた。
「所詮、口だけってことだ! 海ぶどうなんて、人族にとっては得体の知れないものでしかなかったわけだ。お前が俺たちに歩み寄るつもりなんて、一切ない!! 大方、人魚の血や海底資源が目当てなんだろう! 違うか!?」
「ふむ……」
俺は考え込む。
確かに、男の懸念も一理ある。
武功によって里に貢献した男がいたとして、その男を全面的に信じるのは危険だ。
その他の言動から、里にとって有益かどうかを慎重に見極めなければならない。
ただ、彼にとって一つ誤算があるとすれば――
「海ぶどうぐらい、食べたことがある。というか、好物だ」
「は?」
男が呆けた顔をする。
そのスキに、俺は彼の皿から海ぶどうをとって口の中に放り込む。
「美味いぞ、これ。ぷちぷちした食感が癖になる。海ぶどうは好きだ」
俺はもぐもぐしながら言う。
これぐらいなら、別に俺じゃなくても多くの人族に受け入れられるだろう。
もちろん好き嫌いはあるので、100パーセントではないだろうが……。
少なくとも俺にとっては余裕である。
そんな俺の反応を見て、男はわなわなと震えた。
「てめぇ、人族の分際で!!」
彼は激昂する。
俺の発言が、よほど気に障ったようだ。
「なら、次は『タコの足焼き』だ! さすがにこれは食えねぇだろう!? 俺たちの中でも、実際に食べたのはまだ一握りの奴だけなんだからな!!」
「うん? それもいけるぞ。全く問題ない」
俺はタコの足焼きを一つ口に放り込む。
そのまま咀嚼した。
やはり美味い。
独特の食感がクセになる。
「なっ!? ば、バカな! こんなゲテモノを!? なぜだ! なぜ食える!?」
男は驚愕の表情で俺を見る。
なぜと言われてもな……。
「ゲテモノとか、そういう認識自体が間違っているんだ。俺たちは海の幸に生かされている。その恵みを有り難くいただくのは、むしろ当たり前のことだろう」
俺はそう返す。
人魚の里は、海と深い繋がりを持っている。
そんな場所でタコをゲテモノ呼ばわりするのはおかしな話だ。
「な、なんだと……」
「おお……! 人族が……海の恵みに感謝しているだと!?」
「信じられん! 人族は海を軽んじ、俺たち人魚族を搾取し続けていたのではないのか!?」
チンピラ集団と若手兵士集団が動揺している。
同時に、俺に対する警戒が薄まっているようだ。
俺はこの機会を逃すことなく、宣言した。
「確かに、両種族の溝は決して浅いものではない。だが、心配無用だ! 俺が種族間の橋渡し役となろう! これはその前祝いだ! 共に海の幸を楽しもうじゃないか!!」
俺は周囲に聞こえるよう、声高に叫ぶ。
男たちは戸惑っていたが、沸き立つ周囲につられたのか渋々といった様子で料理を食べ始めたのだった。
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