「――はっ!? ここは……」
俺は覚醒する。
すぐさま起き上がった。
周囲を確認する。
「う、うおぉっ!?」
間一髪で回避した。
今、俺がいた場所には矢が突き刺さっている。
あと一歩遅かったらヤバかったな……。
「チッ! 避けやがったか……」
男が忌々しそうに舌打ちをする。
彼は……俺の幻影の一人だ。
どうやら、『もし俺が最初期からユナのパーティに加入し、弓士としてのスキルを特化させていたら』という世界線から召喚された幻影らしい。
その弓術は、まさに神業。
技術、身体能力、特注の弓と矢……。
それらの合わせ技により、彼はわずかな時間で多数の矢を放つことができる。
「ははっ! まだまだ行くぞぉ! 『極技・千本桜』ぁ!!」
「ぐっ!?」
俺は回避に専念する。
マズイな……。
このままではジリ貧だ。
だが、どうすれば良い?
俺では彼を正面から打ち倒すことは難しい。
弓は専門外だし……。
「遠距離攻撃は良いものだ! 安全なところから一方的に攻撃できる! それに、敵をぶっ殺しても罪悪感など覚えない!! どうだ、羨ましいだろう!?」
「くっ……」
言っていることは……分からなくもない。
戦闘のリスクを小さくするのは大切なことだ。
それに、魔物を仕留めた際にグロテスクな血などを間近で見なくて済むことも、メリットだと考えていいだろう。
「この世界線において、お前は二つの選択ミスをしている! 一つは、満遍なくスキルを伸ばしたせいで器用貧乏になっていること! そしてもう一つは、弓術スキルを取らなかったことだ!!」
「うるさい! 俺には弓術スキルなんぞ不要だ!!」
確かに弓術を伸ばすことにメリットはある。
だが、今さらわざわざスキルポイントを消費してまで強化していくほどかと言われると、微妙だ。
ユナに教えてもらって、自力での取得には挑戦している。
最近は忙しくて、ややサボリ気味だったが……。
そのうち取得できるかもしれない。
それで十分だろう。
「そうか? なら、その身体に教えてやるよ!! 弓術の真の恐ろしさをな!!」
幻影がさらなるラッシュを仕掛けてくる。
まるで豪雨のような矢の連撃だ。
……くそ、全部回避するのは至難の業だぞ!
「あっ!? ぐ、ぐおおおっ!!」
俺は避け損ねる。
肩や足を貫かれてしまった。
激痛が走る。
「思い知ったか! 俺はタカシ=フェンガリオン『アーチャー・スタイル』!! 弓を極めし者だ!!」
幻影が叫ぶ。
もし俺がユナのみを選んで共に歩んでいたら……彼と同じ実力を得ていたのだろうか?
それに、今頃はユナとの間に子どもだって……。
「――いや、違う! 『もし』なんて考えるな! 俺は……俺の道を進む!!」
「何ぃ!?」
幻影が驚きの表情を浮かべる。
俺は重力魔法を発動し、その場から飛び去った。
たとえ千の弓矢が降ろうとも、高速で空中を移動していれば当たる可能性は低くなる。
ついでに言えば、特殊な重力場によって弓の命中率も悪くなるだろう。
俺たちが戦っているこの場所は、『霧隠れの里』の地下遺跡だ。
かなり広い上、出口は見当たらない。
逃走しても成功確率は低そうだが、態勢を立て直すことぐらいならできるはず――
「へっ! 甘ぇよ!!」
「ぐあっ!?」
空中を飛んでいる俺の背中に衝撃が走る。
また別の幻影に攻撃されたようだ。
俺はバランスを崩されつつも、なんとかそちらに視線を向ける。
「な、なんだ? 青い炎を纏っている……? それはいったい、なんなんだ!」
「ふん……! てめぇが選ばなかった道で身につけた、俺だけのスキルだ!!」
「あぐっ!?」
俺はその幻影に空中で蹴り飛ばされる。
そして、勢いよく地面に叩きつけられてしまったのだった。
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