俺たちはクラーケンと交戦中だ。
連携プレイから、最後に蓮華の一撃で触手の1本を根本から切り飛ばした。
それはいいのだが――
「蓮華! 早く戻ってくれ! 海に落ちたらマズイぞ!!」
俺は叫ぶ。
人魚メルティーネの加護を受けている俺はともかく、蓮華は海に落ちたら無事で済むとは思えない。
「心配無用! この程度、拙者にとっては朝飯前……って、ぬおおぉぉっ!?」
クラーケンの触手が蓮華を横薙ぎに叩いた。
蓮華は辛うじてガードする。
だが、その威力を完全に殺せず、遠くの海上へと吹き飛ばされてしまう。
「蓮華ーーっ!!!」
俺は叫ぶが……返事は無い。
あれはマズイぞ。
この大海原で孤立……。
クラーケンやその他の魔物に襲われたらひとたまりもない。
それに、単に海上の遭難者という点だけでも非常に危険だ。
「お館様、私にお任せを。――【ワープ】」
レインが呟く。
次の瞬間、レインの姿がかき消えた。
そして……すぐにまた現れる。
「お館様! 蓮華様を救出して参りました!!」
レインがそう言う。
彼女の背後には、蓮華の姿があった。
どうやらレインの空間魔法で救出できたらしい。
「助かったでござる! ……とうっ!!」
蓮華が即座に戦線へ復帰する。
触手を根本から切り飛ばしたのは快挙だが、命知らずの無茶はやめてほしい……。
「ふふん。順調じゃない。――【トリプル・バースト】!!」
「【ボルカニックフレイム】だよっ!」
蓮華の無事を確認した俺たちは、再びクラーケンとの戦闘を再開する。
ユナが弓で、マリアが火魔法でクラーケンへ攻撃を加えた。
引き続き、激しい戦闘が繰り広げられていくが――
「……? な、なにか様子がおかしいですね……」
「ふふん。クラーケンの動きが雑になっているわね。触手を根本から切られて、錯乱しているのかしら?」
「ちょっとかわいそうだけど……。チャンスだよっ!!」
ニム、ユナ、マリアがそう分析した。
確かに、クラーケンの動きに精細が欠け始めているように見える。
それに、触手の再生にも手間取っているようだ。
「ごああっ! 【ファイアーブレス】!!!」
「いくわよ! 【シャドウエッジ】!!」
ドラちゃんと月が、クラーケンに攻撃を加えている。
もう終わりが見えてきているかもしれない。
クラーケンの攻撃が無秩序になっている。
バシャバシャと、船とは程遠い海面を触手で叩いていた。
「ヤケになったら勝負は終わりです。――はああぁっ! 【オフェンシヴ・アーマー】!!」
ニムが土魔法を発動する。
周囲が海ということもあって、土魔法の発動は普段よりも困難だ。
ここまで温存気味に戦ってきたようだが、ここで勝負を決めるべく発動したのだろう。
ニムは岩の鎧を纏うと、それを維持したままクラーケンに猛スピードで駆け寄った。
そして――
「【ブリリアント・パンク】!!」
強烈な体当たりをクラーケンに叩き込む。
「グオオォーッ!?」
クラーケンは苦悶の悲鳴を上げた。
そのまま、船とは反対方向へとバランスを崩す。
「ニム、素晴らしい体当たりだったぞ。そして俺は、こちら側にスタンバイ済みだ」
俺はニムが突進する直前に、空間魔法でクラーケンの後方にワープしていた。
そして、クラーケンがバランスを崩すタイミングを待っていたのだ。
右手に紅剣アヴァロン、左手に紅剣ドレッドルートを持ち、構える。
普段は両手で握る大剣だが、一瞬なら二刀使いも可能だ。
闘気と魔力を高め、そして――
「【斬魔二刀流・六道輪廻】!!!」
俺はクラーケンに渾身の攻撃を叩き込む。
これで終わったか……?
「タカシさんっ! お気を付けください!! どうやら、まだ終わっていないようです……!」
サリエが叫ぶ。
クラーケンが再び暴れ出したのだ。
「グオオォッ! グオオォーッ!!」
咆哮を上げる、巨大なイカのような魔物――クラーケン。
だが、もう力強さは感じない。
その体には大小様々な傷があった。
切り傷もあれば、矢が刺さっている箇所もある。
凍りついている触手もあれば、焦げている触手もある。
先っちょが切り飛ばされている触手も、根本から切り飛ばされている触手も。
俺たちが総攻撃を仕掛けて、クラーケンにダメージを与え続けた結果だ。
「これでトドメです! はあああぁっ! 【剛拳流・侵掠すること火の如し】!!!」
ミティが上空から叫ぶ。
あれは……レインの空間魔法で上方に転移させてもらったようだな。
ミティはその手に持つハンマーに膨大な闘気を纏い、クラーケンに向かって急降下した。
「【ギガント……ボンバー】!!!!!」
ミティのハンマーが炸裂する。
それを受け、クラーケンの頭部が陥没する。
そして、巨大なイカの魔物はついにその活動を停止したのだった。
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