俺は海の上でリオンと戦っている。
彼は龍神ベテルギウスの力に馴染んできたようで、少しばかり手強くなりつつある。
ダークガーデンの首領『ナイトメア・ナイト』として影魔法に頼る今の戦い方では、少しばかりキツイ。
「喜べ。お前ごときに、真の実力の一端を見せてやるのだからな」
「何を言っている? ついに頭がおかしくなったか?」
リオンが嘲笑する。
だが、俺は気にせず呪文を唱え始めた。
「――【ダークフレイム】」
右手から漆黒の炎が放たれ、リオンを襲う。
「ふん! ただの火遊びか!!」
リオンが拳を振るい、それをかき消した。
だが、それは想定内である。
「我が黒き炎は全てを焼き尽くすまで消えぬぞ?」
「なにっ!?」
リオンが慌てて自分の拳を確認すると、その表情が驚愕に染まった。
彼が目にしたのは、先ほどかき消したはずの黒い炎がまだ燃えている光景である。
「くっ! こんなもの!!」
リオンが腕を振り回す。
しかし、その程度で消えるはずもない。
「無駄だ。そのまま焼け死ぬがいい」
「ふざけるなっ!!」
リオンが拳を水面に浸け、なんとか鎮火しようとする。
だが、その程度では闇の炎を消すことはできない。
「ぐっ……! なぜだっ!?」
「『ダークフレイム』は火力こそ低いものの、対象を燃やし尽くすまで決して消えることはないのだ」
まぁ、実際には限度はあるけどな。
彼がもう少し頑張れば、あの炎は消える。
だが、それを黙って見ている俺ではない。
混乱しているリオンに、さらなる追い打ちをかけるべく行動を起こす。
「ほら、追加の炎をプレゼントだ。――【ダークフレイム】」
「なにぃ……っ!」
俺は再び呪文を唱えると、今度は左手からも闇色の炎を放った。
二つの炎が混ざり合い、一つの巨大な塊となる。
「我が黒炎はどうだ? 美しいだろう?」
「ぐおおおぉっ!! ば、バカな! こんな……こんな火魔法を扱える者が存在するはずがない! 存在したとすれば、表舞台に出てくるはずだ! そう、火魔法で有名なあのハイブリッジ男爵のように……!!」
「…………」
それで正解だよ、と言うわけにはいかない。
しかし、少しばかり高度な火魔法を使っただけでハイブリッジ男爵の名前が出されるとはな。
やはり、こうした秘密作戦において火魔法はなるべく使わない方がいいな。
まぁ今はオルフェスの沖合で戦っているので、リオン以外の人目を気にする必要はないのだが。
それでも、なるべく正体は隠しておくに越したことはない。
「何者なのだ……貴様は!?」
リオンが焦燥感に満ちた声で叫んだ。
「俺はダークガーデンの首領『ナイトメア・ナイト』。そしてまたの名を、『ダークフレイム・マスター』という」
「『ダークフレイム・マスター』……だと!?」
「ああ。その名、しかとその胸に刻んでおけ」
俺はニヤリと笑みを浮かべる。
そして、再び両手に魔力を込めた。
「――【W・ダークフレイム】」
ドゴオオォッ!!
両手から放たれた炎は、凄まじい勢いでリオンを飲み込んだ。
「うわあぁっ! 熱い! た、助けてくれぇっ!!」
リオンが悲鳴を上げる。
俺はその様子を冷めた目で見つめながら、こう言い放った。
「お前はもう助からない。闇の炎の抱かれて眠れ」
ズガァーーンッ!!
次の瞬間、リオンを中心に大きな爆発が起きた。
同時に、大量の海水が巻き上げられ、辺り一面が濃い霧に覆われる。
「……」
俺は上空へと移動し、リオンの姿を探す。
常人なら無事なはずもないが、今の彼は龍神ベテルギウスの力を借りている状態だ。
死んではいないはずである。
案の定、生きた状態の彼を発見した。
「うっ……ぐっ……」
「ほう、やはり頑丈だな」
「……クッハッハ! 厄介な炎だったが、英霊の力を宿した私を倒すには至らなかったようだな!!」
リオンが傷だらけの顔で言う。
かなりのダメージを負っているが、まだまだ元気そうだ。
俺はそんな彼に、ゆっくりと近づいていく。
「さて、どうする? 研究成果を全て明け渡し、衛兵に自首するのであれば生かしておいてやらんでもないが……」
「ふざ、けるな……。私は『ラウンド・ワン』になる男だ! こんなところで捕まるわけにはいかん!!」
「残念だ」
俺はため息をつく。
コイツが改心してくれれば、研究員としてハイブリッジ男爵家で雇うことも可能なんだがなぁ……。
平日は楽しく平和な研究を進め、週末にボウリングやカラオケで息抜きをする。
それでいいじゃないか。
不老不死だの英霊だの言っている現状のままだと、さすがに危険すぎて採用できない。
「お前を排除するため、俺の秘奥義を見せてやろう。死にたくなければ、頑張って防御することだ」
俺は静かに、そう告げたのだった。
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