紅葉が団子のおかわりを食べようとしたときのことだった。
「よ、ようやく見つけたぞ!!」
「ん?」
そんな声が、俺たちにかけられた。
声がした方を見る。
そこには、一人の少年が立っていた。
「お前は、さっきの……」
俺は少年に話しかける。
彼は顔を真っ赤にしながら、俺を睨みつけた。
「てめぇ……! よくもやってくれたな!!」
「おやおや……。何の話だね? 心当たりがまるでないな」
俺はすっとぼける。
そんな俺に、少年はさらに詰め寄ってきた。
「おちょくってんのか!? 財布の中に……こんなモン、入れやがって!!」
少年は懐から何かを取り出す。
それは、彼が俺から盗んだ財布だった。
その中には、『ハズレ』と書かれた紙切れが入っている。
「ほう? これは驚いたな。俺の財布じゃないか。いやぁ、まるで気付かなかった。いつの間にか、俺の懐から財布が消えていたとは……」
「白々しいぜ! このクソ野郎が!!」
少年は顔を真っ赤にして怒鳴る。
そんな彼に、俺は言った。
「スリをしておいて、ハズレを掴まされたと逆ギレか? 盗みは犯罪だ。出るところに出てもいいんだぞ」
「うぐ……!?」
少年は言葉に詰まる。
言ってみれば当たり前のことだ。
犯罪をした方が『盗んだ財布に大したものが入っていなかった』と怒るのは理不尽。
出るところに出れば、彼は確実に負けるだろう。
「うるせーよ!! てめぇだって、オレの財布をスリ返しただろうが! 誤魔化せると思ったら大間違いだ!!」
「やれやれ……」
俺は首を振る。
そんな俺を、紅葉が不安そうに見ていた。
「高志様……」
「大丈夫だ。心配ない」
俺は紅葉に微笑みかける。
そして、少年に向き直った。
「まぁ、落ち着けよ。怒ってばかりじゃ、疲れるだろう?」
「はぁ!? てめぇ……! ざけんじゃねぇぞ!!」
「ふざけてなどいない。……そうだ、団子でも食べて落ち着け。うまいぞ」
「なっ……!?」
「遠慮するなって。ちょうど臨時収入があったんだ。金には余裕がある」
「だからっ! そもそもそれはオレの金だっつーの!!」
少年は怒鳴る。
そんな彼に、俺はさらに団子を勧めた。
「まぁ、そうカッカするなよ。ほら」
「だからっ!! 人の話を聞け!!!」
「ふむ。……仕方がないな」
俺はため息をつく。
いくら言っても、少年は怒鳴るばかり。
これでは、通行人たちの注目を集めてしまう。
今の俺はまだお尋ね者などではない。
だが、鎖国中のヤマト連邦への侵入者ではある。
それに、近い内に桜花城を攻め落とす予定もある。
無闇に目立つのは避けたい。
「この流華(るか)様を舐めた報いは、必ず――」
「ごちゃごちゃうるせえ! いいから食え!!」
「むごっ!? んんーっ!!」
俺は少年の口に団子を突っ込み、強制的に黙らせたのだった。
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