俺は『エリアヒール』を発動し、戦士たちの傷を治療した。
これでほとんどの者が一命をとりとめただろう。
しかし、中には治療がまだ不十分な者もいる。
リリアンたちに手伝ってもらい、俺は残りの怪我人を発見した。
「うっ……ぐっ……!」
戦士の人魚族はうめき声をもらす。
かなり苦しそうだ。
「左足の出血が激しいな……」
見た感じ、半分近くの肉が削げ落ちている。
骨も露出してしまっているようで、痛々しく見える。
(これでは確かに、『エリアヒール』では治療できんな)
いくらチート持ちの俺でも、限界はある。
ここまでの怪我は、『エリアヒール』では対処しきれないだろう。
もちろん全くの効果なしというわけではないので、これでも当初よりはマシになっているのだろうが……。
元々はどれほどの重傷だったのか、想像するだけで痛い。
「うっ……! ぐぅっ……!!」
人魚族の戦士は苦悶の表情を浮かべ、体をよじらせている。
この傷を放置していたら、命にかかわる。
さっさと処置しなければ……。
「――慈悲深き治療の神よ。彼の者の命の灯を繋ぎ止め、その体を癒やしたまえ――【リカバリー】」
俺はすぐさま詠唱を開始した。
この魔法は『キュア』『ヒール』などよりも効果の高い上級の治療魔法である。
中級の『エリアヒール』と違って単体を対象とする魔法だが、その効果は折り紙付き。
簡単な治療魔法で完治しない場合、この魔法を使うことが多い。
「うぐっ……!? あ、あれ……? 痛く……ない?」
人魚族の戦士は呆然とした表情を浮かべる。
もう苦痛は感じていないようだ。
正確に言えば、まだ完治していないので若干の痛みはあるはずだが……。
直前までの激痛に比べれば遥かにマシだろう。
「なっ!? ま、まさか『リカバリー』まで……! こ、これほどの治療魔法を使えるとは……!?」
リリアンが驚愕の声を上げる。
彼女だけでなく、周囲の者たちも目を大きく見開いている。
「どうだ? 見直してくれたか?」
「は、はい。まさか、人族の中でも屈指の治療魔法使いでしたとは……。感服いたしました」
リリアンはそう言って、丁寧に頭を下げる。
どうやら、俺のことを認めてくれたようだ。
俺は治療魔法専門ではないので、『治療魔法使い』と呼ばれることに若干の違和感を覚えなくもないのだが……。
別に訂正するほどでもないか。
「よし……。それでは次の重傷者の治療に向かおう。どこにいる?」
俺はそう言って周囲を見渡す。
これだけ怪我人が多いと、『エリアヒール』で対処できなかった者が他にいてもおかしくない。
「ナイトメア・ナイト様! リリアン様! こちらに様子のおかしな者がいます!!」
「分かった! すぐに行く!」
人魚族の女性職員が俺とリリアンを呼んだ。
その様子はどこか焦っているように見える。
やはり、まだ負傷者がいたようだ。
俺はリリアンと共に急いで向かうことにした。
(しかし、妙な表現だったな? 『重傷者』ではなく『様子のおかしな者』か……)
俺は妙に思う。
しかし、考えていても仕方ない。
実際に見た方が早いだろう。
(一体、どんな症状が……?)
俺は首をひねりながら、呼ばれた場所へ急ぐのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!