……君は?
そう尋ねる間もなく、少女は剣を抜いた。
『神器顕現:蒼月神楽(そうげつかぐら)』
「なっ……!?」
刹那、蒼白い光が迸る。
凍てつくような輝きが夜闇を裂き、視界を奪った。
風が渦巻き、大気すら震えている。
次の瞬間、嵐のような剣撃が襲いかかった。
一撃。
二撃。
否――刹那にして無数の斬撃。
目で追うことすら叶わない速さ。
否応なく迫る刃の奔流に、俺は本能的に闘気を全開にして防御を固める。
しかし――
「くっ……!」
刃が触れた瞬間、ただの剣ではないことを悟った。
重さがない。
それなのに、精密かつ残酷なまでに鋭い軌跡を描き、俺の守りを容易く裂こうとする。
刀身が肌をかすめた瞬間、体の内側を抉られるような錯覚に陥る。
単なる切れ味の鋭さではない。
まるで、魂そのものを削ぎ落とされるような感覚。
「この……!」
圧倒的な力の前に、地面が抉れ、土砂が舞う。
俺は後退を試みる。
しかし――
「……っ!?」
足が動かない。
足元に広がる蒼の陣。
絡みつく光の糸が俺の全身を蝕み、じわじわと締めつけるような感覚が広がっていく。
重い。
沈み込むような圧迫。
全身が粘つくような力に絡め取られ、思うように動かせない。
まるで蜘蛛の巣に囚われた虫のように、じわじわと自由を奪われていく。
「高志様っ!!」
紅葉の悲鳴が耳を打つ。
彼女の声に意識を向けた、その瞬間――
鋭い閃光が、俺の視界を焼いた。
「がっ……!」
少女の剣が、俺の胸を貫いていた。
熱い。
焼け付くような激痛が、全身を駆け巡る。
だが、それだけではない。
これは――魂ごと、斬られている……?
剣が触れた瞬間、内側から崩れていくような感覚に襲われた。
四肢の力が抜け落ち、地に足がついているはずなのに、現実から切り離されていくような錯覚。
意識の深奥が裂けるような感触に、立っているのか、倒れているのかすら分からない。
世界が揺れ、視界が歪む。
『揺るがぬ運命への反逆……。万象を清め、混沌を断ち切り、真なる道を指し示す――この神剣ならば、あるいは……』
冷たく、淡々とした声。
だが、その言葉に込められた意味は、計り知れぬほどの覚悟と、揺るぎない決意に満ちていた。
抗えない。
声すら出せない。
俺の中で、何かが確かに断ち切られていく。
魂が軋む。
全身が軋む。
ただ、それに耐えることしかできない。
少女の攻撃は、まるで俺の魂を斬り裂くかのような痛みをもたらした――
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