俺は『霧隠れの里』でカゲロウという女性に迫っている。
「なぁ、いいだろ? もっと俺について知りたくはないか?」
「た、助けて! 誰か、私を助けて!!」
カゲロウは泣き叫ぶ。
こんな反応をされると、まるで俺が悪者みたいだ。
「カゲロウ、俺は本当にお前と親しくなりたいと思っているんだ。だから……」
「い、いや! 私に触らないで!!」
カゲロウは俺を押しのけようとする。
しかし、今の俺は『闘気』と『魔力』を全開にした状態だ。
そんな俺の力に対抗できるはずもなく、カゲロウはジリジリと後退するだけだった。
「なぜだ? 俺のことが嫌いなのか?」
「き、貴様のような変態を好きになる者などいるわけがないだろう! それに、里長としての責任もある。得体の知れない異国人を受け入れるわけにはいかない!!」
「むっ……」
俺が異国人だと、どこでバレたんだ……?
俺は黒髪黒目である。
ここの住民と大きな差はないはずだが……。
それに、失言もしていないと思う。
していないよな?
まさか、『俺はサザリアナ王国から来たタカシ=ハイブリッジ男爵だ。よろしく頼む』なんて自己紹介もしていないし……。
俺がやったことは、異国の下着であるフンドシを試着したことぐらいだ。
「誰かー!! 助けてーー!!!」
カゲロウが大声で助けを求めている。
ここでようやく、騒ぎを聞きつけた住民たちが集まってきた。
この状況下ではカゲロウへのアプローチを続けるわけにもいかない。
俺は仕方なく彼女から離れる。
「カゲロウ様!? お怪我はありませんか?」
「また侵入者ですか……! 呪符の再備蓄はまだまだ進んでませんよ!?」
「異国人の変態め……! 下半身をさらけ出しながらカゲロウ様に迫るとは!! 許すまじ!!!」
住民たちが口々に叫ぶ。
また侵入者……?
呪符……?
気になるワードがいくつかあった。
しかし、俺が質問するよりも早くカゲロウが動く。
「今が好機っ! はあああぁっ!!」
「むっ? この波長は……」
俺の足元に魔法陣が浮かび上がった。
おそらく、転移魔法系の術だろう。
だが、俺が普段使っている転移魔法とは少しばかり仕様が違った。
上手くレジストできない。
俺は驚いた。
だが、それ以上に住民たちが驚いていた。
「カゲロウ様!? その術は……まさか!?」
「あの禁呪を使われるのですか!? いけません! このような変態に、それを使うべきでは――」
住民たちが止めようとする。
よく分からないが、危険な術らしい。
あるいは、危険ではないが発動回数が限られている特殊な術か何かだろうか?
俺としても、得体の知れない術を使うのはやめてほしいところだが……。
カゲロウは止まらなかった。
「彼は変態だ! しかし、その実力は本物! こうでもしないと対処できない!!」
「で、ですが!!」
「『霧隠れの里』を守護せし巫女よ……。どうか、里に仇成す侵入者を封印してくださいませ……」
カゲロウが詠唱を続ける。
やはり、上手くレジストできない。
マズイな……。
「カゲロウ様っ! おやめください! その術は……!!」
「危険です! 万が一、適合でもされたら……!!」
「その時はその時だっ!! 【忍法・夢幻流転の術】!!!」
住民たちが叫ぶ中、カゲロウが詠唱を完成させた。
それと同時に、俺は魔法陣の中に吸い込まれていく。
そして、俺の視界は暗転したのだった。
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