翌日――。
「よぉし! これで石材による補修作業は完了だ!! みんな、よく頑張ってくれたな!!」
リーダー格の男が宣言する。
その言葉に、作業員たちが声を上げた。
「おぉぉぉっ……!!」
「やったぞぉーっ!!」
「これで、今日からは安心して眠れるってもんだぜ!!」
みんな、嬉しそうにしている。
この作業は、俺たちにとっても大きな試練だったからな。
それを何とか乗り切ったことで、確かな達成感を感じているのだろう。
「人族の兄ちゃんが来てくれたおかげだ!」
「そうだな。俺たちだけなら、あと数日以上はかかっていたはず!」
「本当に助かったぜ!」
作業員たちが感謝の言葉を口にする。
俺は少しばかり照れくさくなったが、悪い気分ではなかった。
「いやいや……。俺一人じゃ無理だ。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」
「人族の兄ちゃん……」
「その『人族の兄ちゃん』ってのも、そろそろやめないか?」
俺は苦笑しながら言う。
彼らに差別意識はないのだろうが、どうにも微妙な呼称の気がする。
日本に在住している外国人を『そこの外国人の兄ちゃん』と呼んでいる感じだろうか。
「そうだな……。何て呼べばいいんだ? 兄ちゃんの名は何という?」
「ナイトメア・ナイトだ」
まぁ、これはこれで偽名……というか通称なのだが。
少なくとも、『人族の兄ちゃん』よりかはマシだろう。
「ナイトメア・ナイト……。変わった名だな」
「まぁな」
ダダダ団の件で取り急ぎ結成した『ダークガーデン』の首領。
その名が『ナイトメア・ナイト』だ。
ダダダ団首領のリオンと戦っているときにメルティーネと出会ったという事情もあり、俺はその名で通している。
ヤマト連邦の件が終われば、改めて『タカシ=ハイブリッジ男爵』として人魚の里と交流していきたいところだ。
「分かったぜ、ナイトメア・ナイトの兄ちゃん」
「長いな……」
「なら、ナイトの兄ちゃんだ」
「それでいいぞ。なんだか、以前よりも親近感を感じられるようになった」
俺は笑う。
作業員たちも、俺の返答に満足そうだ。
(……おっ。これは……)
俺は気づく。
ミッションが順調に達成へ近づいていることに。
ミッション
10人以上の人魚族に加護(微)を付与せよ
報酬:スキルポイント20(本人のみ)
達成人数:7人
10人以上で達成となるところ、現状で7人となっている。
メルティーネ姫、侍女リマ、治療岩責任者リリアン、エリオット王子。
そして、リリアンの部下の女性にも、ギリギリで加護(微)を達成できた人が1人いた。
以上で5人。
そして今回、作業員のリーダー格ともう1人に付与できた。
これで合計7人。
残りは3人となる。
(順調だな……)
俺はホッと胸を撫で下ろす。
人魚の里での活動も、終わりが見えてきていると考えていいだろう。
成り行きとはいえ、四肢の拘束も全てが解除されたわけだしな。
「それで、今日はこれで解散か?」
「いや、違うぜ。石材による補修作業は終わったが、次は結界魔法による補強作業に入ることになっている」
「結界魔法?」
そう言えば、エリオット王子がそのようなことを言っていたか。
確か、外から内部を認識しづらくなるとか……。
「結界の効力が切れかけている疑惑があるらしくてな……。石材で物理的に補修した後、結界魔法によって補強することになっている」
「ほう」
「ナイトの兄ちゃんのおかげで、工程が早まった。実は昨日のうちに魔法師団の方に連絡しておいたんだ。……ああ、ほら。来たぞ」
リーダー格の男が、離れたところに視線を向ける。
俺もつられてそちらを見る。
そこには、魔法使いっぽい感じの人魚が数人いたのだった。
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