「もう一度言おう。止まりたまえ」
金髪碧眼の美少年が、蓮華に向かって静かに告げた。
その細身の体は、まるで風に揺れる柳のようにしなやかだが、その姿勢には確かな覚悟が宿っていた。
彼は両腕を広げ、背後に隠れた何かを守るように立ちはだかっている。
「ぬぅ……。お主は?」
蓮華が目を細め、相手の様子を窺う。
剣士としての直感が、この美少年がただ者ではないことを告げていた。
「名乗るほどの者ではない。ただ、君にこれ以上進まれると困る。それを伝えに来ただけさ」
美少年の目は鋭く、けれどその口調にはどこか冷静さが漂っていた。
「そう言われても困るでござる。東へ向かうには、この道が最短故」
「……ほう?」
美少年の瞳がわずかに揺れた。
彼はあごに手を当て、しばし考え込むような素振りを見せる。
「君の目的は純粋に、東へ向かうことだけなのか?」
「然り」
「つまり、結界妖術を破ってここまで来たのは偶然だと言うわけだね」
「結界……?」
蓮華は小首をかしげた。
その仕草に、美少年は何かを察したかのように目を細める。
「……まさか、君、結界の存在にすら気づいていなかったのかい?」
「ふむ。言われてみれば、何か妙な感覚があったような気もするでござるが」
「そうか。つまり君には、結界妖術を無効化する何らかの才能が備わっているということか」
美少年はどこか納得したように頷いた。
しかし、その理解は正確ではない。
蓮華は結界妖術の無効化に特化しているわけではない。
タカシに与えられた加護やステータス操作の恩恵により、ただ圧倒的な実力を持っているだけである。
外敵の侵入を防ぐ結界妖術も、はるか格上に対しては意味をなさない。
「まぁ、理由はどうでもいい。問題は、ここから先だ」
美少年は再び手を広げ、蓮華の進路を遮った。
「里への害意がないことは分かった。しかし、それでも君を通すわけにはいかない」
「む……。どうしてでござるか?」
「僕は守り人だ。隠れ里の存在を守り続ける。それが僕の役目だからさ。君のような部外者を里に入れるわけにはいかない」
「ふむ……。しかし、拙者も引くわけにはいかぬでござる。少しでも早く、仲間たちと合流せねばならぬゆえ」
「……仕方ない。ならば、力尽くで止めさせてもらおうか」
美少年が身構えた。
その動作は洗練されており、ただ者ではないことを示していた。
蓮華は目を細め、静かに刀に手をかける。
「ふむ。ならば拙者も覚悟を決めねばならぬでござるな」
静寂が辺りを包む中、二人の間に緊張が張り詰める。
誰もが息を呑むような刹那の攻防が幕を開けようとしていた。
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