「ふう……。今日は本当に楽しい宴だった。改めて礼を言わせてくれ」
「こちらこそ、楽しい時間を過ごせましたの。ナイ様との時間は、何事にも代えがたい宝物ですの」
俺の言葉を受けて、メルティーネが微笑む。
俺たちは二人並んで歩きながら、王城の廊下を歩いていた。
すでに宴はお開きとなっている。
ここで、宴での俺の行動を振り返っておこう。
最初は侍女リマと楽しみ、次に作業員のおっさんたちと飲み交わし、治療岩責任者のリリアンと歓談し、チンピラや若手兵士との関係を改善し、魔導師団分隊長のヨルクと穏やかに過ごし、エリオット王子に挨拶し、ネプトリウス陛下と大切な話をした。
その後、メルティーネやその他の面々への挨拶を済ませつつ、再びリマたちと楽しみ……。
そして、今に至るというわけだ。
「しかし、本当にいいのだろうか?」
俺はメルティーネに聞く。
彼女はうなずいた。
「ええ、もちろんですの」
「前代未聞のはずだぞ。人族を宴に招くだけならまだしも、王城の一室に泊まらせるなんて……」
俺は言う。
俺たちが向かっている先は、ネプトリウス陛下が俺に用意した部屋だった。
普段は使われていないようだが、来客があったときや重要な客人をもてなすときなどに使われるらしい。
「これまでがおかしかったんですの。英雄であるナイ様を洞窟に軟禁するなんて……。それでは、まるで罪人ではないですか」
「まぁ、確かに……」
俺は同意する。
海底にある人魚の里において、俺は『海神の大洞窟』という洞穴に軟禁されていた。
洞窟内には空気溜まりがあるなど地上に近い環境だったので、ありがたい側面もあったのだが……。
「ナイ様のご滞在に備え、客室の1つを改築しておきましたの。どうぞ、こちらへ」
「ああ……。ありがとうな」
俺はメルティーネに手を引かれて進んでいく。
彼女の手はとても華奢で小さかったが、とても温かかった。
そうして、しばらく進んだ後……。
「こちらですの」
メルティーネは立ち止まる。
「おお……」
俺は感嘆の声を漏らした。
彼女の指差す先にあったのは、立派な客室だった。
特殊な構造により部屋全体に空気が満ちており、地上文化と同じような様式の部屋となっている。
調度品は質素ながらも美しく、ベッドのシーツも清潔感があった。
俺のために用意してくれたのだろう。
俺はメルティーネに向き直る。
「さすがだな。これなら、快適に過ごせそうだ」
「お褒めにあずかり、光栄ですの」
メルティーネはそう言って、俺の前に位置どる。
そして、上目遣いで俺を見た。
「あの……。よろしければ、今夜はこのお部屋でご一緒させていただきたいですの……」
「!?」
恥ずかしそうに言う彼女に、俺は一瞬だけ固まってしまった。
これは……どうするべきか……。
相手は王女だぞ?
王城の客室で共に寝るなんて……。
「な、なんちゃって……。冗談ですの。忘れてくださいですの」
俺が何も答えないでいると、メルティーネは慌てた様子で言葉を重ねた。
いかんな。
女性を不安にさせるなんて、紳士の風上にも置けない。
俺は彼女の目を見て言った。
「こちらからお願いしたいくらいだ。一緒にいてもらってもいいか?」
「は、はいですの……!」
メルティーネの顔が明るくなる。
彼女がうなずくのを見て、俺は客室の中に入ったのだった。
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