氷ロボの丼型コアが、淡く、そして静かに輝く。
内部で揺れる冷製出汁が、まるで心の震えを写すかのようにさざ波を立てる。
その光景は、ただのロボットの動作ではなかった。
まるで意志を持ち、応えるように、彼女の信念を宿したかのような美しさがそこにあった。
「うどんは特別な食べ物……。麺は美味しく、だしも味わい深い。色とりどりの具材がそれを引き立てる。じっくり嗅ぎながら楽しんで、ハフハフしながらちゅるちゅると吸い込んで……。時には冷やしうどんもいいでしょう。どんな食べ方でも、味わったみんなが幸せになる! それが――それこそが、うどんですわ!!」
その声音には、凍てつく冬の刃のような鋭さが宿っていた。
だが同時に、それは深い夜を切り裂く星の光のように、確かな温もりを伴っていた。
冷たさだけではない。
守りたいものがある者の、強さと優しさが共存する声だった。
「……!!」
琉徳の目が驚愕に見開かれる。
その隙をつくように、グラキエス・うどんロボの背部から氷の羽根がゆっくりと展開された。
無数の氷晶が舞い上がり、瞬く間に戦場の温度を数度下げてゆく。
澄んだ青い光が、空気を透明な結界のように包み込み、戦場の風景そのものを幻想の世界へと変えていった。
「はぁぁぁあああああっ!! 【冷やし乱舞・冬の陣】!!」
彼女の叫びと共に、蒼白の閃光が空を裂いた。
うどんロボはその一瞬に、風そのものとなった。
疾風のような速さで駆け抜け、渦巻く冷気を全身に纏いながら、巨麺兵の懐へと舞い込む。
その身に纏った渦巻く冷気は、ただの冷たさではない。
彼女の決意、積み重ねた日々、そしてここに至るまでのすべての想いを凝縮した、研ぎ澄まされた冷静な激情だった。
――ズドォォォン!!
空間が揺れた。
凄まじい衝撃とともに、巨麺兵の胸部が音を立てて砕ける。
瞬時に露出した温玉コアが、凍てつく吐息のような冷気に包まれ、音もなく氷結する。
その凍結は、まるで時間そのものを封じるかのような神々しささえ帯びていた。
「おーほっほっほ! あなたの野望は、わたくしのグラキエス・うどんロボが打ち砕きますわ! だだだだだだぁっ!!」
「ぐっ……! ま、待て! この攻撃はさすがに……!!」
「待ちませんわ! 悪・即・斬! うどんの敵は、跡形もなく粉砕します!!」
「な、ならばお前のそれもうどんではな――ぐああああぁっ!!」
琉徳の抗弁を打ち砕くように、連撃が巨麺兵を襲った。
その最後の一撃は鋼鉄すら貫く力を宿し、迷いも容赦もなかった。
温玉コアが砕け、内部の動力が沈黙する。
機体全体がぐらりと傾き、膝を折り、長く吐き出す蒸気の音とともに、まるで罪の重みに耐えかねたかのように崩れ落ちていった。
静寂。
時間が止まったかのような一瞬のあと――拍手。
誰が始めたのかも分からぬ拍手が、まるで空気の揺らぎのように広がっていく。
やがてそれは歓声へと姿を変え、満ちた光の中で、人々の心を一つに包んだ。
リーゼロッテは静かに微笑む。
彼女のうどんロボは、穏やかに冷気を吐きながら、勝利の証としてそびえ立っていた――。
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