「くらえ! 【W豪熱球】!!」
俺は左右の手から、火魔法を発動させる。
諸々の制約によって使い勝手の悪い魔法だが、今はそれがちょうどいい。
妖力による景春の防御を適度に貫いて――
「!?」
突然、視界がぐらついた。
何だ?
いったい何が起きた?
「あぐ……」
うめき声が聞こえる。
景春……じゃない。
俺自身のものだ。
ポタッ……ポタッ……。
視界に何かが映る。
血だ。
血が滴っている。
(し、出血……? 攻撃を……受けたのか……?)
何が何だか分からない。
視界が不明瞭だ。
体が動かせない。
思考も上手くまとまらない。
「――春の息吹よ、花の嵐よ。我が身を包み、神威を我がものとせよ! 【神霊纏装・木花咲耶姫(このはなさくやひめ)】!!」
「っ!?」
な、何だ!?
この強大な妖力は!?
不味い!
とにかく距離をとれ!
動け!
動けよ、体!!
避けるんだぁあああ!!
「桜花家伝来……【満開・桜槍閃】!!」
「うっ!?」
景春の叫び声と共に、強大な妖力が発された。
俺は床に倒れ込む。
「く……!」
ようやく、かろうじて体と思考の自由が戻ってきた。
床に倒れた状態から、俺は体を起こす。
「な、何が起きた……?」
大技の直撃を受けた?
いや、違う。
コケたんだ。
尻もちをつくようにして転んだおかげで、景春の大技を躱すことができた。
助かった。
しかし、疑問は尽きない。
何だったんだ、さっきのは……?
何が起きた?
大技『炎精纏装・サラマンダー』を発動中の俺に、物理攻撃は通じないはずなのに……。
「ぐっ……! は、外したか……!!」
景春がうめく。
その体は桜色の神聖な衣に包まれていた。
あれは何だ?
いや、それよりも……
「このクソガキ……! 両腕を捨てやがったのか……!!」
俺は景春を睨む。
彼の腕は焼け爛れている。
もはや使い物にならないだろう。
それはいい。
元よりそのつもりで攻撃した。
生命力の強い強者にとっては、直ちに命に別状がある類の怪我ではない。
全てが落ち着いたあと、俺の治療魔法で根気よく治療するという選択肢もある。
ただ……問題は、彼の腕が『両方とも』焼けていることだ。
おそらく、俺の攻撃を受ける際、妖力による手の防御を放棄したのだろう。
そして、防御ではなく攻撃に妖力を使った。
俺の攻撃に対するカウンターとして、顎に蹴りを叩き込んできたのだ。
(『炎精纏装・サラマンダー』の発動中でも、攻撃に意識を割いているときは防御性能が落ちる……。それでも、生半可な攻撃は俺に通じないが……。藩主レベルの捨て身攻撃を顎という急所に食らえば……)
俺は歯噛みする。
自身を無敵と過信していたかもしれない。
だが……思いついてもやるか?
自分の両腕を放棄して、捨て身の攻撃をするなんて……。
「まだまだ……勝負はここからだ……!」
景春が叫ぶ。
彼はまだ……戦えるようだ。
両腕は使い物にならない状態だというのに、一切の闘志を失っていない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!