「せぇいっ!!」
アイリスが『千手の試練』の洞窟へと足を踏み入れてから、半日ほどが経過した。
彼女は既にいくつかの関門を撃破している。
今も、武闘によって妖獣を倒したところだ。
「それにしても、どういう仕組みなんだろう……? 純粋な妖術ではないとか言っていたけど……」
この洞窟内にはいくつかのエリアがあり、それぞれを突破することで次のエリアへと進める。
全体として洞窟内とは思えないほど広く、そして複雑な構造になっている。
アイリスの疑問はもっともだ。
「いわゆるダンジョンみたいなものなのかな? それを妖術ってやつで制御して、試練に活用している……とか」
彼女はそう推測する。
この試練の洞窟は、サザリアナ王国の散在する迷宮と似たような性質を持っているのだ。
「……おっと。考え事をしている暇はないね。次の試練は……」
アイリスが周囲を見回す。
すると、壁に文字が書かれているのを発見した。
「『千手の間』……か。ついにボス戦かな? 意外に早かったね」
早いとは言っても、ここまで半日以上かかっている。
にもかかわらず、アイリスはこれまでの関門でほとんど消耗していない。
ひとえに彼女の実力の高さゆえだ。
「さて、お手並み拝見と行こうかな……」
アイリスはそう言いながら、試練の洞窟の最深部へと足を踏み入れる。
そこには……異様な光景が広がっていた。
「これはまた……壮観だ」
彼女の目の前には、千手観音像があった。
異国の生まれであるアイリスだが、千手観音というものの存在は以前から知っている。
そして、この地に来てからお世話になっている寺院でも実物の千手観音像は確認した。
ただ……今目の前にある像は、あまりにも巨大だった。
高さ20メートル以上はあるだろうか?
無数にある腕――その手のひらだけでも、アイリスと同じかそれ以上のサイズ感がある。
「この像に見られながら、妖獣と戦うのかな? ちょっと落ち着かない――って、あれ?」
ピカッ!
突如、千手観音像の目が光り出す。
アイリスはその光景に驚きつつも、気を引き締めて戦闘態勢を取った。
『我は千手観音菩薩……。この手は善き者に慈悲を施し、悪しき者に裁きを下す……。さらなる力を求むるならば、器を示せ……。これより、試練を授けよう……』
「千手観音……菩薩? この地で信仰されている神様ってところかな? かなりの圧を感じる……」
アイリスは観音像から放たれる威圧感に圧倒されながらも、拳を構えた。
そして、千手観音像との戦いが始ま――
『【壱乃手・化仏(けぶつ)】』
「っ!?」
――るや否や、千手観音像が動いた。
その容赦なく振り下ろされた掌底は、アイリスの全身を打ったのだった。
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