「まさか、俺たちが盗掘団退治に駆り出されるとは……」
「しょうがないよ。私たちだって、ラーグの街の住民だもん」
俺とモニカは、西の森を歩いていた。
この森の奥にある山岳地帯に、盗掘団が居座っているらしい。
しかも、盗掘団は5人や10人ではない。
最低でも30人以上。
大規模な集団が活動しているようだ。
「でも、どうして料理人の私たちに声がかかったんだろう?」
「俺たちの雷魔法が強力だからじゃないか? それに、多少は動けるからな」
俺とモニカは、『雷魔法』や『脚力強化』といったスキルを『ステータス操作』で取得している。
本業は料理人だが、多少はスキルポイントに余裕があったからな。
たまに荒くれ者が店に押しかけてくることもあったので、戦闘用のスキルも伸ばしてみたのだ。
素早さなどが上がることで料理の方にも多少の好影響があったし、一石二鳥だった。
そしてその実力を見込まれ、俺とモニカで盗掘団討伐隊の一角を構成することになったわけである。
「あはは……。あんまり過信しすぎないようにしようね」
モニカが苦笑いする。
俺たちはラーグの街でも数少ない雷魔法使いだ。
しかし、それでも戦闘は不慣れである。
俺たちは『ステータス操作』頼みでスキルを伸ばしたから、実際の戦闘経験が乏しいのだ。
「分かってるさ。油断はしない」
「うん! タカシがいるから、安心だね!」
俺とモニカは笑い合う。
そして、盗掘団を探して進んでいった。
――その後、俺たちは盗掘団の一部と遭遇した。
「はぁ……はぁ……。何とか倒せたな……」
「うん……。それにしても、雷魔法があんなに効くなんてね」
俺とモニカは、盗掘団に雷魔法を食らわせた。
すると、面白いように彼らは感電したのだ。
「加減を誤って、何人かを殺してしまったのが悔やまれるな……」
「そうだね。でも、しょうがないよ。相手は犯罪者なんだし……。冒険者ギルドからも『生死不問』って言われてる」
俺とモニカは、遭遇した盗掘団を全滅させた。
スキルレベルは高いが、実戦で使った経験は乏しい。
そのため、加減が上手くいかず殺してしまった者も現れた。
「……え? あれっ……?」
「どうした? モニカ」
モニカが1人の盗掘団メンバーを見つめる。
数少ない女性メンバーのようだ。
感電により大ダメージを負っているが、彼女はギリギリ無事らしい。
魔法抵抗力が高いのだろう。
「この人、どこかで見たことあるような……」
「何? 知り合いか?」
「ううん。でも……どこかで見たような……」
モニカは女性メンバーに近づいていく。
そして、彼女の顔を覗き込み――
「あーーーっ!!」
と大声を上げたのだった。
――モニカが『雷魔法』で感電させた女性。
彼女は、モニカの母ナーティアだった。
数年前の事故で亡くなったかと思われていたのだが……。
実は記憶喪失で倒れていたところを拾われ、盗掘団メンバーとして働いていたらしい。
全くの偶然だが、雷魔法がいい感じに脳を刺激して多少の記憶も戻った。
モニカの父ダリウスとも再会し、また共にラビット亭で働いている。
記憶喪失の間に共に過ごしていた盗掘団メンバーにも思い入れがあったようだが……。
俺とモニカ以外の盗掘団討伐隊も派手に暴れまわったらしく、半数以上の盗掘団メンバーは戦闘中に死亡してしまっている。
特に頭領や副頭領を含めた幹部陣はほぼ全滅状態である。
そんなわけで、ナーティアは盗掘団の過去は忘れて、またモニカたちと過ごすことを選んだのだ。
「しかし、一家水入らずのところに申し訳ないな」
「タカシ……怒るよ?」
「え?」
「タカシだって、もう私の家族なんだから。水臭いこと言わないでよ」
モニカがぷっくりと頬を膨らませる。
俺は慌てて謝罪した。
「ごめん。そうだったな。今の俺は『タカシ=リシャス』。モニカといっしょに、ラビット亭をもっと大きくしてみせるさ」
「うんっ! 目指すは……王都の一等地への進出だね!!」
「おう! 俺たちの味を、世界に広めていこうぜ!」
俺とモニカは笑い合う。
その後、モコナという子宝にも恵まれ、ますます俺たちは幸福に包まれたのだった。
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