モニカと別れた後。
ラビット亭を後にし、冒険者ギルドに戻る。
受付嬢のネリーに話しかける。
「ネリーさん。少しよろしいですか」
「はい。なんでしょう」
「魔石を売りたいと思っているのですが。冒険者ギルドで買取可能でしょうか」
「はい、可能ですよ。現物を見せていただけますか」
アイテムルームから魔石を取り出し、カウンターに乗せる。
ネリーが魔石を見る。
「こ、これは! かなり上質な魔石ですね。どのような大物だったのですか?」
ネリーが驚いた顔でそう言う。
「いえ、この魔石はもらいものでして」
「そうですか。この魔石だと、金貨200枚以上の価値はあると思います」
「そ、そんなにですか」
思っていたより高価だ。
魔石は、魔物の体内で生成される石だ。
魔素が結晶化したものらしい。
極まれに魔物からはぎ取れる。
残念ながら俺たちが討伐した魔物から入手できたことはない。
入手できたらラッキーぐらいのものと聞いている。
「それぐらいはします。詳細の値段は、鑑定担当の職員に算出させます。明日の午後以降にまた来ていただけますか?」
「わかりました」
ネリーが何かの書類に書き込んでいる。
「……では、こちらが魔石の預り証です」
預り証を受け取る。
「確かに。では、よろしくお願いします」
これで魔石の現金化の段取りはよし。
明日の朝、まずはモニカのラビット亭を改めて訪れてみよう。
●●●
翌日の朝。
俺、ミティ、アイリスの3人でラビット亭に向かう。
モニカがいた。
半壊した店の片付けを行っているようだ。
少し様子を伺おう。
「ふう。まだまだ片付けの先は長いなあ」
モニカがそうこぼす。
「が、がんばりましょう。モニカさん」
そう言ったのは、ニムだ。
犬獣人の少女である。
「手伝ってくれてありがとうね。ニムちゃん」
モニカとニム。
彼女たち2人で、協力してガレキの片付けをしている。
彼女たちは面識があったのか。
「い、いえ。私でよければいくらでも手伝います」
「ありがとう。ちょっと休憩にしよっか」
俺たちが来るよりもかなり前から作業していたのだろう。
ここらでひと休憩するようだ。
「こ、これ、私の畑で取れたリンゴです。いっしょに食べましょう」
ニムがかごからリンゴを取り出す。
俺も以前、彼女からリンゴを売ってもらったことがある。
良い味だった。
モニカに渡してアップルパイにしてもらったこともある。
ああ。
そう言えば、そのアップルパイの一部をニムにあげたこともあったな。
懐かしい思い出だ。
「ニムちゃんの畑にも被害が出たんでしょう? 無理しなくてもいいんだよ?」
俺はニムと少し話したことがある。
彼女の家は、率直に言えば経済的に困窮している。
モニカに手を差し伸べる余裕などないはずだ。
「い、いえ。モニカさんには、ご飯を分けてもらった恩がありますから」
俺がいない間に、モニカがニムにご飯を分けてあげたりしていたのか。
その恩を忘れず、今度はニムがモニカに手を差し伸べているわけか。
自分にも余裕はないはずなのに。
ええ子や。
「ありがとう。ニムちゃん」
彼女たちは作業を中断し、リンゴを食べ始める。
しばらくして、彼女たちがリンゴを食べ終える。
話しかけるなら今かな。
「モニカさん。こんにちは」
「やあ、タカシ。どうしたの?」
モニカがこちらに目を向ける。
「昨日ミティたちとも相談したのですが、店の復旧作業で何か手伝えることはないかと思いまして」
「いいの?」
「ええ。またモニカさんのおいしい料理を食べたいですし」
これは本音だ。
メインは忠義度を稼いでからの加護付与だが。
彼女のおいしい料理を食べたいのも嘘ではない。
「じゃあ遠慮なく頼もうかな。申し訳ないけど、店が再開して軌道に乗るまではあまりお礼もできないよ。無理のない範囲で手伝ってね」
「わかりました。紹介しておきます。新しいパーティメンバーのアイリスです」
「アイリスだよ。よろしくね、モニカさん」
アイリスがフランクに挨拶する。
俺やミティと初めて出会ったときもこんな感じだったな。
彼女の性格だ。
「よろしく、アイリスさん」
モニカがアイリスに挨拶を返す。
「ミティもアイリスも、力は強い。力仕事は任せてください。俺もがんばります」
腕力の強さは、ミティ>>俺>アイリスだ。
ミティがぶっちぎりで強い。
俺はミティには大きく劣るものの、腕力強化レベル1のスキルを持っているし、一般的には間違いなく強いほうだ。
アイリスは腕力強化のスキルは持っていないが、もともと鍛えているし、加護付与により基礎ステータスが3割向上している。
いざとなれば闘気による出力アップもあるし、一般人と比べると段違いに力が強いと言っても過言ではない。
「あと、俺とアイリスは治療魔法を使えます。ケガをしたときは遠慮なく言ってください。まずは、その足の治療をしましょう」
「えっ。治療魔法も使えるんだ。……タカシって、もしかして将来有望な冒険者なの?」
モニカが驚いた顔でそう言う。
そう言えば、治療魔法を使えるようになるには、専門の学校や教会で数年間学ぶのが一般的なんだったか。
激レアというほどではないが、すごいと言えばすごい方なのだろう。
「自分で言うのもなんですが、今回訪れていた街でもいろいろと活躍しました。今はCランク冒険者です」
このあたりの伝え方は難しい。
どう伝えれば忠義度が稼ぎやすそうか。
あんまり謙遜し過ぎるのも良くないだろう。
かと言って、ドヤ顔であれこれ武勇伝を語るのもな。
やり過ぎると、逆に忠義度が下がりそうだ。
バランスが難しい。
「へ、へぇ。すごいんだね」
モニカがそう言う。
ちょっとは見直してくれたかな。
「では、足を出してください。包帯もほどきますね」
「ん……」
モニカが足を差し出してくる。
包帯をほどいていく。
彼女は兎獣人だ。
兎獣人だけあって、なかなかに強靭な足をしている。
おそらく、特別に鍛えたりはしていないだろう。
種族の特性といったところか。
ふむ。
なるほど。
思わず、モニカの足をあれこれ触ってしまう。
「……タカシ様?」
「……ちょっと、タカシ?」
ミティとアイリスから声をかけられる。
「はっ!?」
我に返る。
いけないいけない。
自分を見失っていた。
「あ、ああ。ごめん。今から治療魔法をかけますね」
ミティとアイリスが静かに怒っているような気がする。
なんとなくヤバそうな気配を感じる。
心を無にして、治療に専念しないと。
「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」
治療魔法レベル2のヒールを発動する。
モニカの足の傷が治っていく。
「すごい……。こんなにすぐに治るものなんだ」
モニカが感心している。
「傷は塞がったようです。中まできちんと治っているかまではわかりません。痛みはありませんか? 動きは問題ないですか?」
「痛みはなくなったみたい。動きも……問題なさそうかな」
モニカが足を動かしつつ、感覚を確かめている。
「それはよかったです。念のため、激しい動きは控えてくださいね」
「わかった。ありがとうね、タカシ」
モニカからお礼を言われる。
喜んでもらえたようだ。
俺もうれしい。
……ミティとアイリスからの視線は少し怖いが。
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