「何だ……?」
俺は振り返る。
するとそこには……。
「……ぁ」
首筋から血を流す、無月の姿があった。
彼女の首には、クナイが突き刺さっている。
「こ、これは……?」
俺は呆然と呟く。
任務失敗の責任を取り、自害したのか?
漫画やアニメではよくある話だ。
いや、しかし……無月は意識を失っていたはず。
自害するなんて不可能だ。
「……っ!!」
俺の背筋に悪寒が走る。
周囲から、得体の知れない視線を感じたからだ。
その視線の主たちは、物陰から姿を現した。
「任務に失敗した者には……。死、あるのみ……」
「たとえそれが、我ら隠密部隊の長であろうとも……な」
「我らは、闇の存在……」
「失敗は許されぬのだ……」
現れたのは、忍び装束に身を包んだ集団だった。
その数は10名ほどだろうか?
彼らは、ゆっくりと近づいてくる。
「お前たち、何者だ……?」
「我らは『闇忍』……。主君に仇なす者を……始末する者だ」
「武神流を潰すために動いているのか?」
俺は心を落ち着かせつつ、彼らに問いかける。
感情が黒く塗りつぶされそうになっているが……。
まだ大丈夫だ。
俺の治療魔法を使えば無月は助かるだろう。
それに、桔梗だってまだ無事な可能性はある。
チートスキルを持つ俺なら、武力で暴れるだけでも解決できるだろう。
だが、それをすると何かのラインを踏み越えてしまいそうな予感があった。
ここは冷静に対話で対処すべきだ。
俺はそう判断した。
しかし、闇忍たちは何も答えない。
ただ無言で……そして静かに俺を取り囲む。
「答えろ! 武神流を潰そうとしているのはお前たちか?」
俺は再び問いかける。
すると、闇忍たちは一斉に武器を構えた。
「我らは、何も語らぬ……」
「矮小な流浪人ごときが首を突っ込んだのが間違いだ……」
「邪魔者は、闇に葬るのみ……」
「闇の怖さを思い知り、散るがいい……」
闇忍たちは口々に言う。
どうやら話す気はないようだ。
俺を排除するつもりらしいが……。
「闇……? 闇の怖さだって……?」
俺は強い苛立ちを覚える。
代替わりした藩主の増税政策に異を唱えることもなく、盲目的に従い……。
まだ幼いながらも師範代として頑張っていた桔梗を連れ去り……。
師範に重傷を負わせ……。
任務に失敗した自分たちのトップを始末する……。
これが闇か?
「ふざけるなっ!!」
俺は叫んだ。
こいつらは狂っている!
そして、何より許せないのは……。
全ての元凶である、藩主の景春。
そして、今回の件を主導したであろう雷鳴流の全師範、雷轟である。
「そんなに『闇』が好きなら……。俺が真の『闇』を見せてやる。覚悟しろ……!」
俺は感情に任せ、闇の力を解放する。
直後、周囲の空間が黒く染まったのだった。
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