「……ちっ! さすがに警備が厳重だな……」
桜花城3階。
俺は、その廊下を静かに移動していた。
物陰から物陰へ。
スキル『気配察知術』を活用して人通りの少ない道を選び、桜花景春がいるはずの最上階『天守閣』へと進んでいく。
この3階は、1階や2階とはまた違った作りになっている。
侵入者がいることを前提にして、侍たちが侵入者を迎撃しやすいような作りとなっているのだ。
「ここにも見張りか……。さて、一瞬でも気を抜いてくれれば突破できるのだが……」
通りたい道にいる、一人の侍。
彼は、俺の存在に気付いていないようだ。
「……」
俺は無言で待機する。
見張りが気を抜くタイミングを見逃してはいけない。
そう集中しすぎたのがマズかった。
「見つけたぞ、曲者だ!!」
背後から、そんな声が聞こえた。
俺は慌てて振り返る。
するとそこには……
「であえ、であえー!!」
数人の侍たちがいた。
慎重に進んでいた結果、3階では侍たちの対応が間に合ってしまった。
階下から、侵入者に関する伝達が届いてしまったようだな。
大声での伝達したか、あるいは特殊な魔導具や妖具により遠距離でも伝達できる手段があるのかもしれない。
俺は思わず舌打ちする。
「大人しくお縄を頂戴しろ、曲者め!!」
侍たちは次々と刀を抜き放ち、俺へと斬りかかってくる。
それに対し、俺は――
「バカめ、誰が相手するかよ」
背中を向ける。
桔梗に教わった武神流『縮地』を使用し、一気に距離を取った。
進んだ先は、元々の進行方向だ。
「馬鹿はそっちだ! もう包囲網は完成しつつあるぞ!!」
「その通り! ここは通さぬ――なにっ!?」
「【八艘飛び】!」
侍が俺を見失い、慌てた声を出す。
俺はそんな侍の頭上を跳躍で超えた。
そして、そのまま駆け出す。
もう少し強い侍が相手なら、後々に背後から襲われないよう確実に撃破しておくのもアリだ。
あるいは、俺と同格近い侍が相手ならそもそも逃げることが困難。
しかし、今回は違う。
この程度の侍どもが相手ならばわざわざ戦うほどではない。
逃げた方が手っ取り早いだろう。
「待てぃ! 曲者め、逃げるな!!」
「卑怯者! 武士の誇りはないのか!」
後ろから侍たちの声が聞こえる。
追いかけてくる気配も感じるが……
「ふん、追いつけるものなら追いついてみろ」
俺の方が速い。
1階や2階より、侍の質が高くなっているようだが……。
まだまだ俺が正面から戦ってやるほどの域には達していない。
「よし、このまま一気に最上階の『天守閣』まで……」
俺は走り続ける。
警備する侍の密度が高めな上、侵入者の情報も伝わっているのだろう。
1階や2階と違い、侍との遭遇頻度が高い。
だが、『気配察知術』でなるべく人が少ない道を選びつつ、いざ遭遇した際は『縮地』や『八艘飛び』で突破することで、俺は何とか進むことができた。
「さぁ、次は4階だ。最上階まであと少し……」
3階から4階への階段には、物理的な細工はないらしい。
俺は階段を駆け上がっていく。
そして、4階に突入したのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!