アヴァロン迷宮に挑戦しているところだ。
1階層のボスであるリトルベアは、同行しているCランク冒険者たちによって撃破された。
俺たちは、少しだけ休憩してから、2階層に向かう。
どんどん歩みを進めていく。
「2階層は……。雰囲気が変わったな」
「そうですね……。何かの遺跡のようです」
サリエがそう言う。
1階層はほら穴のような感じだったが、この2階層は遺跡のような趣がある。
通路のところどころに石版が置かれてある。
「ふうん。興味深いけど、なんて書いてあるかわかんないね。だれか読める人はいる?」
「どうやら古代言語のようですわね。ただ、それ以上のことはわたくしにはさっぱり……」
リーゼロッテが首を振る。
他のみんなもわからないそうだ。
謎の遺跡に、意味深な石版。
気になるが、解読できないのであれば仕方がない。
「……ん? あれ?」
「どうしました? タカシ様」
俺はあらためて、石版を注視する。
……読めるぞ?
俺はこの文字を読める。
俺の異世界言語のスキルのおかげか?
こんな古代言語まで読めるとは、地味ながらかなりのチートである。
「ええと、なになに……。『ここは新大陸に隣接する孤島。山奥で、新種のドラゴンを発見』か」
「読めるの!? すごいね!」
「い、意外な特技ですね」
モニカとニムがそう言う。
意外とは何だ。
俺だって、やるときはやる男だ。
「どこで古代言語を? ……いえ、今は置いておきましょう。それよりも、その内容ですわ」
「うーん。新大陸に隣接する孤島って言えば、この島のことだよね?」
モニカがそう言う。
「そうだろうな。新種のドラゴンっていうのは、普通に考えてファイアードラゴンのことか」
「確かに、ボクも中央大陸ではファイアードラゴンという名称を聞いたことがなかった。とてもめずらしいドラゴンだろうね。外界から来たのかもしれない」
この新大陸の北東部には、中央大陸がある。
新大陸よりも大きな大陸だ。
中央大陸や新大陸からはるか海を超えた先には、さらに広大な大陸が広がっている。
その名を、外界と言う。
外界には、行くだけでもかなりの危険が伴う。
50年ほど前に、当時のS級冒険者たちが力を合わせてなんとか上陸だけは果たしたと言う。
しかし探索は早々に頓挫し、やむなく帰還。
その際に、いわゆる5大災厄を持ち帰った。
そのうちの1つが、ミティの故郷ガロル村で猛威を奮った霧蛇竜ヘルザムである。
「ふむ……。興味深い内容だったが、ダンジョン攻略には直接関係なさそうか……」
ファイアードラゴンが外界から来たのだろうと、もともとここで生きていたのだろうと、俺たちがやることは変わらない。
何とかダンジョンを踏破した上で、ファイアードラゴンの再封印をすることである。
俺たちは、再び奥に向けて歩みを再開した。
●●●
その後は、順調に2階層の探索を進めていった。
この2階層では、ファイアーバードやポイズンコブラなどが出現した。
ファイアーバードは、文字通り火を纏っている鳥である。
ポイズンコブラは、毒を持った蛇である。
それぞれさほど強くはないものの、油断はできない魔物だ。
ファイアーバードはうかつに攻撃すれば火傷するし、火が服に燃え移る可能性もある。
ポイズンコブラは、もちろん毒をくらったら厄介だ。
とはいえ、これらのリスクは近接戦のときに発生するものである。
「水球よ。我が求めに応じ現われよ。ウォーターボール」
コーバッツが初級の水魔法を発動し、ファイアーバードにぶつける。
衝撃力はさほどないが、火を纏った鳥に対して水は特効だ。
ファイアーバードはあっさりと息絶え、虚空へと消えた。
「炎のせいれいよ。火のたまを生み出し、わがてきをめっせよ。ファイアーボール!」
「炎の精霊よ。火の矢を生み出し、我が眼前の敵を撃ち抜け。ファイアーアロー!」
マリアとユナが、それぞれ火魔法を発動させる。
狙いはポイズンコブラだ。
ポイズンコブラは毒こそ厄介ではあるものの、直接的な戦闘能力は下級だ。
俺が駆け出し冒険者の頃に、西の森で狩ったこともある。
今のマリアやユナの火魔法をくらえば、ポイズンコブラごときはひとたまりもない。
やつは息絶え、虚空へと消えた。
その後も順調に進んでいく。
1時間以上は経過しただろうか。
ダンジョン内なので、時間の感覚が掴めない。
「ここが2階層の最奥部のようだ」
俺はそう言う。
少し開けた場所だ。
奥には3階層へ上る階段が見える。
しかしその前に、階層ボスを倒さなくてはならない。
「…………!」
大型の魔物がこちらの存在に気付き、戦闘態勢を整える。
あれはーー。
「スコーピオンか!」
「ふふん。さすがに、2階層のボスは一味違うってわけね」
スコーピオン。
本来は砂漠に住まうサソリ型の大きな魔物である。
体長は3メートル以上。
強固な外骨格を持つため、剣や槍の攻撃は効きにくい。
尻尾には毒があるため、ハンマーなど打撃系の近接攻撃で押し切るのもリスクがある。
「くっ。こいつはやべえ……」
「だが、タカシの旦那に負担をかけるわけには……」
トミーたち同行の冒険者がそう言う。
確かにできるだけ彼らに対応してもらいたいところだが、ムリをして死傷者が出るのも避けたい。
多少のケガなら俺たちの治療魔法で治療できるが、MPにも限りがあるしな。
「スコーピオンは火に弱い。ここは俺たちに任せてもらおう」
「ふふん。あれからさらにパワーアップした、私たちの合同火魔法ね」
「マリアもがんばる!」
俺、ユナ、マリアの3人で、詠唱を開始する。
「「「……燃え盛る地獄の業火よ。我が敵を灰燼となせ。ファイアーテンペスト!!!」」」
ごうっ!
激しい炎の竜巻が発生する。
俺たち3人での合同火魔法だ。
コツコツと練習して、練度が上がっている。
「…………!!!」
超高熱の炎に焼かれ、スコーピオンが苦しむ。
「す、すげえ火魔法だ」
「さすがはBランクの超新星! そこに痺れる憧れるぅ!」
同行しているCランク冒険者たちがそう持ち上げてくる。
もちろん悪い気はしない。
「練度がとんでもなく高い。1+1+1が3になるどころじゃねえ」
「威力は3倍、5倍……いや、10倍だ!」
すっげえアバウトだな。
しかし確かに、俺、ユナ、マリアが単独で発動したときの火魔法の威力をそれぞれ1とすると、合同火魔法の威力は3を超えているように感じる。
さすがに、10に達しているかは微妙な気もするが。
「…………!」
スコーピオンが燃え盛る体のまま、こちらに向かって走り出した。
破れかぶれの特攻か。
俺、ユナ、マリアは火魔法の持続に集中しているため動きづらい。
ここはーー。
「ロック・デ・ウォール」
ニムだ。
彼女が土魔法で防壁を作ってくれた。
彼女の土魔法はレベル5。
MP強化や魔力強化のスキルを伸ばしていることもあり、柔軟性に富んだ魔法を扱える。
ネーミングセンスはやや怪しいが。
「…………!」
ズガン!
スコーピオンが土壁に阻まれ、停止する。
そうこうしている間にも、俺たちの火魔法は継続している。
そして、しばらくしてやつは霧散した。
これにて討伐完了だ。
「よし。いい感じだな」
「うん! がんばって練習したかいがあったね!」
「ふふん。悪くないわね」
MP以外はほとんど消耗せず、2階層を突破できた。
順調だ。
「この調子だと、最奥部まで簡単につきそうだな」
俺はそう軽口を叩く。
そのときーー。
「……警告、警告。アヴァロン防衛システムに、異常発生……」
ダンジョン内に、無機質な声が響き渡った。
この声はいったい……?
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