ハイブリッジ杯の表彰式を行っている。
まずは、一回戦負けの面々に参加賞と労いの言葉を贈っているところだ。
ヒナとトリスタをこの機会にくっつけておいた。
少し強引だったかもしれないが、結果的には正解だった。
二人が加護(小)の条件を満たしたのだ。
後で付与しておこう。
とりあえず、今は参加賞の受け渡しの続きを行おう。
次はレインだ。
彼女が俺の前まで来る……が、視線は横を向いている。
「ふぁああ……。いいなあ……」
レインが羨望の眼差しをヒナに送っている。
確か、彼女は15歳だったか。
結婚に憧れを持つ年頃なのかもしれない。
「レイン。お前にも参加賞を渡そう」
「あっ。ええっと。ありがとうございます!」
彼女がこちらに向き直り、そう言う。
俺は彼女に参加賞を手渡す。
「レインは結婚に憧れがあるのだな」
「はい。素敵だと思います!」
「お相手はいるのか? ヒナのように、俺の名のもとで祝福してやってもいいが」
「いえ! 私はまだそういう話は全然なくて……」
「ほう。それは勿体ない。では、好きな男はいるのか?」
レインは快活なタイプの美少女だ。
この世界において彼女は既に適齢期に差し掛かっているし、浮いた話の一つぐらいはあってもいいだろう。
「……は、はい……。その人には奥さんがいますけど、それでもいいと思っていて……」
妻帯者を好きになってしまったのか。
略奪愛じゃねえか。
あまり応援はできないな。
いや、その男に稼ぐ力があれば、一夫多妻で幸せな家庭を築くことも可能かもしれないが。
「それは誰なのだ? 差し支えなければ教えてくれ」
そいつが立派な奴なら、レインとの仲を取り持ってやってもいいだろう。
「ええっと。その……」
彼女が言いよどむ。
言いにくい相手なのか。
まさか、セバスとかじゃないだろうな?
まあ、職場内恋愛を禁止しているわけではないし、俺がとやかく言う必要もないのだが。
「言いにくいならいい。金銭的援助や、結婚式の祝いの言葉が欲しければいつでも言ってくれ」
あまり問い詰めすぎるのもよくない。
俺と彼女は雇用主と被雇用者の関係だし、貴族と平民の身分差もある。
パワハラやセクハラには気をつけないとな。
「あ、あの……。わ、私の想い人はですね……」
「おう」
どうやら話してくれるようだ。
彼女が意を決したように口を開く。
「お、お館様です!!」
……んっ?
なんだって?
「すまん。もう一度言ってくれないか?」
聞き間違いかと思った。
「お館様です!!!」
顔を真っ赤にしてレインが叫ぶ。
「レインは俺のことが好きだって言ったのか?」
「は、はい。そうです」
……はあー。
なんということだ。
よりにもよって俺とはな。
「そうかそうか。俺のことが好きか」
「はい。お慕いしております……」
彼女の忠義度を確認してみる。
30台後半だ。
少し前には20台だった。
いつの間にか大幅に上がっているな。
彼女に対して特に何かをしたわけではないのだが。
「なぜ俺なんだ?」
「ミティ様やアイリス様など、たくさんの奥方様を幸せにしておられる甲斐性の持ち主だからです。それに、リンちゃんやロロちゃんにもとても優しいですし……。最近、あの二人はお館様の話ばかりをするんですよ」
レインが熱っぽく語る。
なるほどな。
忠義度稼ぎの活動は、その対象者の忠義度だけを上げるにとどまらない。
評判が評判を呼び、連鎖的に忠義度が稼げるわけだ。
ミリオンズのみんなに加護を付与するにはそれなりの時間や苦労を要したが、この段階まで来ると今後の加護付与は楽に行えるかもしれない。
「……わかった。レインの気持ちはよく伝わった。だが、今すぐに返事はできない」
レインから俺への好意は本物のようではある。
忠義度30台だしな。
ツキと同程度ではあるが、彼女は俺の金や地位に惹かれている面が大きい。
純粋な好意としては、レインの方が上と考えていいだろう。
しかし、今日は愛する妻たちの懐妊が判明した日だ。
メイドのレインへ手を出すという宣言をするわけにはいかない。
「そ、そうですよね。突然こんなことを言われても困ってしまいますよね。ごめんなさい」
レインがシュンとする。
「ハイブリッジ騎士爵! 女に恥をかかせるなーっ!」
「責任を取れーっ!」
観客席からヤジが飛んでくる。
しまった。
レインの声量は結構大きかったので、俺たちのやり取りは聞こえてしまっていたようだ。
「ぐぬっ! タカシ様にヤジを飛ばす不届き者め! 粛清してやりましょうか……」
ステージ上に立つミティが、怖い顔をして客席を見下ろしている。
落ち着け。
別に喧嘩を売ってきたわけではないのだ。
ただ、レインという可愛い少女が泣きそうなのを放っておけなかっただけだろう。
俺はミティに目配せをして、怒りを鎮めるよう伝える。
彼女は渋々といった様子で矛を収めた。
ふう。
「とにかくだ。少し考えさせてほしい。前向きに検討する」
「わかりました! お待ちしています!」
レインはそう言って下がっていった。
やれやれ。
思いも寄らない者から思いも寄らない場所で告白されてしまった。
切り替えよう。
次はネスターだ。
彼が俺の前まで来る。
「おう、ネスター。一回戦負けとは残念だったな。まあ、相手があの蓮華では仕方ない」
「ああ……。しかし、キリヤ君は彼女と互角の勝負を行っていたしな。自分の力不足を痛感したよ」
「そうか。ならば次に向けて鍛錬に励むことだ。応援しているぞ。シェリーとの仲は順調か?」
「うむ。なんとかな」
彼はそう言って苦笑する。
「結婚する気はあるのか?」
何だかさっきからこの系統の話ばかりしている気がする。
プライベートな話に踏み込み過ぎかもしれない。
しかし結婚は人生の重大イベントだし、積極的に活用して忠義度に繋げていきたいところでもある。
うーん。
難しいところだ。
「ゆくゆくはできればと考えているが……。まだ俺たちは奴隷の身。まずは十分な働きを見せて身分を解放してもらってからだな」
彼は条件付き主従契約の奴隷だ。
通常の主従契約の奴隷や隷属契約の奴隷と比べた場合、一定の働きを見せれば身分を解放されることが多いと聞いている。
俺もそうするつもりだ。
「わかった。ネスターとシェリーの安定した実力は頼りになる。今後も期待しているぞ」
ハイブリッジ家は人手が不足している。
彼やシェリーを今すぐに解放することは避けたい。
まあ、解放した後もここで働いてくれるなら解放してやってもいいのだが……。
そのあたりは慎重に判断しないとな。
さて。
次の者はだれだったかな?
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