治療岩で、闇の瘴気に侵された狂戦士が暴れた。
俺は彼から武器を取り上げ、周囲の戦士たちと協力して無力化する。
次にするべきことは――。
「闇の瘴気を祓えば、彼も元通りになる。それは俺が保証しよう」
「ナイトメア・ナイト様がそうおっしゃるなら……。どうか、よろしくお願いいたします!」
リリアンは深々と頭を下げる。
治療師としての責任感からの行動だろう。
闇の瘴気は治療魔法では対応できないので、彼の処置はそもそもリリアンの管轄外なのだが……。
責任感が強い彼女は、自分の力の至らなさを痛感したようだ。
「ああ……。任せておけ」
俺はそう言って、狂戦士の方へと向き直る。
彼はまだ抵抗を続けていた。
「グウゥッ!!」
口からは涎を垂らし、目つきも普段の数倍悪い。
手足もプルプルと震えており、明らかに正常な状態ではないことが分かる。
「――神聖なる光の力よ。彼の者に宿りし闇を祓いたまえ――【ホーリーシャイン】」
俺は聖魔法を使用した。
俺の中にある聖魔力が活性化し、体から溢れ出す。
そして、その光は狂戦士の体を優しく包み込んだ。
「ナ……ナンダ、コレハ……?」
狂戦士は自分の体の変化に戸惑う。
先程までの凶暴な様子が嘘のように、大人しくなった。
「あ……あぁ……。俺は何を……?」
正気を取り戻したらしく、彼は呆然としている。
どうやら、自分が何をしていたのかあやふやなようだ。
「どうだ? 俺が分かるか?」
俺は彼の前にしゃがみ込み、優しい口調で話しかける。
彼は呆然としたまま俺の方を見た。
そして、ハッとした。
「誰だ? お前は……?」
「…………ふむ。俺が分からないのか」
俺は天を仰いだ。
瘴気の影響とはいえ、まさか俺のことを忘れているとは……。
これはなかなか衝撃的な展開である。
「参ったな。記憶障害が残っているらしいぞ、リリアン」
「へ? あ、あの……」
困惑した表情を浮かべるリリアン。
やはり困るよな。
記憶というのは、人格にも関わってくる重要事項だ。
それをきれいさっぱり失っているというのは、問題だと思うのだ。
「ナイトメア・ナイト様は、以前から彼と面識があったのですか?」
「いや。初対面だ」
「え……?」
俺の答えにリリアンは困惑の色を深める。
何か変なことでも言っただろうか?
俺が疑問に思っていると、彼女は言葉を続けた。
「そ、それでは彼があなたのことを知らなくて当然では……?」
「……! そ、そう言えばそうか」
「ええ。そもそも、ナイトメア・ナイト様のお顔はまだまだ人魚族に認知されていません。『ジャイアントクラーケンと戦った強力な人族がいる』という噂程度は、広まりつつありますが……」
「…………」
それを聞いて、俺は押し黙った。
言われてみればその通りである。
「俺はバカだ。やはり、俺はバカだったんだ……」
「い、いえ! ナイトメア・ナイト様が頭が悪いなどと、そんなことはありません! ただ、ちょっと抜けてらっしゃるだけです!!」
リリアンは必死に俺をフォローしようとする。
彼女の優しさが身に沁みた。
その後、戦士に記憶障害が残っていないことを無事に確認する。
こうして俺は、無事に狂戦士を浄化したのだった。
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