「――というわけで、今日の狩りは終了とする!」
「「「はっ!!!」」」
俺たちは西の森から少し出た場所にいる。
魔物の掃討作戦は順調に進んだ。
今は、俺が参加者たちに対して狩り終了のお知らせをしているところだ。
フレンダが討伐したブラックタイガー。
雪月花、トミー、アランあたりが討伐したリトルベア。
その他の冒険者が討伐したゴブリンやハウンドウルフなどなど……。
今日だけでも相当な数の魔物を倒した。
このペースだと、数日後にはひと息つけるだろう。
森全体の魔物を全滅させるには、日数以外の要素も必要だろうが……。
広大な森だと、どうしても見落としがあるからな。
ある程度魔物の数が減ってきた段階で、今度はローラー作戦のような形で狩りを進めていくことになる。
まぁ、そのあたりはまだ先の話だが。
「皆、ご苦労だった。ゆっくり休むといい」
「「はいっ!!」」
冒険者たちはみんな元気だ。
中には、報酬が楽しみすぎてニヤついている者もいる。
魔物の肉類は、ラーグやリンドウ周辺では値崩れしている。
だが、保存の効く魔石の類はまだまだそれなりの金になる。
それに、今回の掃討作戦ではハイブリッジ男爵家から別途討伐報酬も支給される。
各パーティの活躍度にもよるのだが、やや控えめな活躍な低ランクパーティであってもそれなりの報酬を受け取ることができるだろう。
当面の生活費を差し引いても、ゆとりができてくるはずだ。
その余剰資金で新たな装備でも整えてもらえればベストである。
ラーグの街では、ミティ、ロロ、ジェイネフェリアあたりの協力のもと、良質な装備や魔道具が比較的安価に出回っているしな。
「明日以降も連日の狩りとなるが、よろしく頼む」
西の森は広大だ。
今日だけで終わりではない。
彼らにはしばらくの間、頑張ってもらうことになる。
「あ、その件なのだけど……」
「どうかしたのか? 月」
「私はしばらく不参加になるわ。雪と花だけになるから、もう少し浅い狩り場に異動させてもらえるかしら?」
「別に構わないが……どうしたんだ急に」
Cランクパーティ『雪月花』。
個々の実力はもちろん高い。
そして特筆すべきは三姉妹から繰り出される連携攻撃だ。
3人パーティなので、単純に考えれば月が抜けてもパーティの戦力は3割減くらい。
しかし連携が失われてしまうという点を加味すれば、1人抜けるだけでも実質的には戦力は5割以上減ってしまうと言っても過言ではない。
「なかなか厄介なリトルベアがいてね……。手傷を負わされてしまったのよ」
「ふむ……」
月の腕を見ると、確かに傷を負っていた。
痛そうだな。
俺が様子を見ていたときには、トミーやアランとも協力して問題なくリトルベアを討伐していた。
だが、同じリトルベア種でも多少の個体差はある。
運悪く、強めのリトルベアと遭遇したのか。
「それぐらいなら問題ないだろうに」
「はぁ? あなた、鬼なの? こんなケガで戦えるわけ――」
「【リカバリー】」
パァアアッ!
淡い光が月を包む。
「はい。これで大丈夫だ」
「えっ!?」
「何なら確かめてみるか?」
「……」
彼女は恐るおそる腕を動かしてみた。
「う、嘘でしょ……。全然痛みがないわ」
「そういうことだ。これで問題ないな」
フレンダといい月といい、俺の治療魔法の腕前をなめていないか?
結構有名だと思っていたんだけどな。
まぁ、噂で聞くのと実際に自分が体験するのでは大きな差があるのだろうが。
「……いくらなのよ?」
「え?」
「治療費よ! まさかタダってことはないでしょうね?」
「いや、お金はいらない」
「なんですって?」
「今回の狩りは、ハイブリッジ男爵家が依頼したものだ。戦闘で負ったケガを治療するのは当然さ。特にお前のように強力な冒険者を治療すれば、明日以降もしっかりと戦ってくれるだろう? 俺にとってメリットは大きい」
「はぁ……」
月は呆れた顔をしている。
チートの恩恵を受けまくっている俺の感覚は、世間とややズレているかもしれない。
その自覚はある。
魔法が存在するこの世界だが、戦闘に活かせるレベルで使える者はやや珍しい。
才能が求められることに加え、その指導体系が確立していないことが原因だ。
そんな中でも、治療魔法はさらに使い手が少ない。
ましてや、『リカバリー』のような上級の治療魔法を使える者は激レアと言ってもいいだろう。
本来であれば金貨数十枚単位で請求してもおかしくはない。
それを無料でやってのけたのだ。
「……いいわ。今回はありがたく厚意を受け取っておくことにする」
「そうしてくれ。明日以降もよろしく頼むぞ」
「ふんっ!」
月はツンデレっぽい反応を示すと、スタスタ歩いて行ってしまった。
三姉妹の中でも、彼女とだけはまだ打ち解けていないんだよなぁ。
「ほら~。言ったでしょ~。タカシさんなら、当たり前みたいに治してくれるって~」
「……うん。男爵さんはとっても優しい……」
花と雪が月を出迎える。
この二人には加護(小)を付与済みである。
俺の能力や性格についても理解してくれているな。
「あは~。ダーリンってば、やっぱり凄いね。惚れ直しちゃったよ~」
「……はぁっ!? だ、ダーリンですって?」
何気なく呟いたフレンダの言葉を聞いて、月はギョッとした顔で振り向いたのだった。
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