真っ昼間からリビングでみんなとイチャイチャしていたところ、ベアトリクス第三王女が乱入してきた。
俺は説教を受けている。
ちなみに服は着ておいた。
「まったく、信じられん! まさか、真っ昼間からこのような破廉恥な行為をしているとは! しかも複数で!」
彼女はプリプリ怒りまくっている。
「しかし、ここは俺の屋敷内だぞ」
「そういう問題ではないっ! 今日我が訪ねることを伝えておいただろうが! それなのに我を待たせ、あまつさえ、このような行為に及んでいるなど言語道断だっ!」
「だからって、ノックもせずに入ってきて、いきなり怒鳴るのはどうかと思うけど?」
俺の代わりに、アイリスが反論してくれた。
「うぐぅ……。そ、それはすまなかった。悪かったと思っておる」
ベアトリクスがシュンとする。
俺に対する態度とはずいぶん違うじゃねえか。
第三王女であるベアトリクスと、騎士爵である俺の間にはそれなりの身分差がある。
そしてアイリスは、そんな俺の第二夫人だ。
ベアトリクスとアイリスの身分差は大きいので、本来はこのような口を聞ける関係ではない。
アイリスは、弱きを助け強きを挫くタイプだ。
一般民衆に対して非常に優しいし、病やケガで困っている人には進んで治療魔法を施す。
さらにはEランクやDランクの冒険者に無料で武闘の指導を行うこともある。
アイリスより強い人はほとんどいないので、一見すると彼女はあまねく全ての者に対して優しいようにも思える。
しかしその認識は誤りだ。
彼女は、自分よりも強い者や身分が高い者に対しては、言うべきことをはっきりと言う。
それに対するベアトリクスは、身分を過剰にひけらかすタイプではない。
俺とはなぜか相性が悪く高圧的に接してくるが、他の者に対してはそれなりに優しい。
自分に負い目がある場合は、普通に謝罪することもある。
「それで、どのような用件で来たんだ? 一応聞くだけ聞いてやろう」
「むぐぐぐ……」
俺に言われ、ベアトリクスは悔しそうに口籠ってしまう。
いつもならすぐに言い返してきそうなものだが、何か言いにくいことでもあるのだろうか?
「どうした? さっきから様子がおかしいが、どこか具合でも悪いのか?」
「そ、そんな事はないっ!」
そう言って、顔を真っ赤にしながらプイッと横を向いてしまった。
一体なんなんだ?
俺は首を捻る。
「お、おそらくですが、タカシさんのあそこを見てしまわれたのでは?」
「そうかもねっ! だって、さっきからチラチラ見てるしっ!」
ニムとマリアがそう指摘する。
第三王女相手にそんなことを言うとは、命知らずな……。
ミリオンズの中では比較的幼い2人だし、そのあたりの感覚が緩いのか?
まあ、ニムは海洋温泉でベアトリクスと貧乳仲間としての親睦を深めていたし、多少の無礼は許されるかもしれない。
そしてマリアは騎士爵の第六夫人であるが、生まれはハガ王国の王女だ。
ベアトリクスと同様に高貴な身分である。
「なっ! そ、そんな訳あるまい!」
「ふん……。顔が真っ赤だぞ」
俺はニヤリと笑いながら揶揄う。
彼女は必死で否定するが、視線は俺の股間に向いている。
「そんなに俺のエクスカリバーが気になるか? どうせ見るのも始めてだったのだろう?」
「ち、違う! 見たことぐらいある!!」
「それはそれで問題では? 未婚の高貴な第三王女様が殿方のアレを見たことがあるとは……世間体がかなり悪くなると思うのですが」
サリエがそうツッコむ。
男爵家次女としてしっかりとした教育を受けてきた彼女は、貞操観念もきちんとしている。
彼女自身が未婚のまま俺と関係を持っていたことは暴露しないでおこう。
「確かにな。未婚の殿下がヤりまくりだと知れたら、王家の権威にも傷がつくし、何より国民から非難されるかもしれん」
「うぐぅ……」
「別に俺は構わんけど、お前の評判が悪くなるだけだぞ?」
「ご、誤解だ! 我が見たのは、パパの……」
「パパ?」
「ネルエラ陛下だ! お前の粗末なモノと一緒にするな! 陛下のあれこそ、まさにエクスカリバー! お前の貧相なモノなど、ただの木の枝だ!!」
ネルエラ陛下の名前まで出されては、さすがにこれ以上はおちょくることはできない。
いろいろとツッコみたいところはあるが、自重しておくか。
「……まあいい。それで、用事は何なんだ? 俺たちの交わりを覗きにきたわけではないのだろう?」
「う、うむ。叙爵式の時期が近づいてきたから、共に王都に向かうという誘いをしにきたのだ」
「ほう……。以前からそういう話は聞いていたし、手紙でも連絡は受けている。言われずとも、当然行くつもりだが……。わざわざ殿下が誘ってくれるとはな」
ミリオンズのみんなを連れて行くかどうかは一考の余地がある。
特にミティ、アイリス、モニカだ。
出産した第一夫人から第三夫人なので、王や貴族への顔見せのためには連れて行った方がいい。
ただし、出産直後なので本人の体力面が大丈夫かどうかと、赤ちゃんたちを連れ回しても問題ないかの検討は必要だ。
当主である俺の出席は確定していると言っていい。
もしミティたちを置いていくなら少し寂しいが、転移魔法陣があるので極端に長期間会えないわけではない。
転移魔法陣以外にも便利な移動手段は増えつつある。
新たに取得した重力魔法を利用した軽快な移動や、風魔法の術式纏装だ。
それぞれに一長一短はあるが、うまく使えば比較的短い時間でラーグの街に帰ってこれるだろう。
「ただの念押しだ。万が一ハイブリッジ騎士爵が来なければ少々問題だからな」
「うん? 何か事故などで出席できない可能性はなくもないが、俺1人が遅れたぐらいで問題となるのか?」
「我から詳細を伝えるわけにはいかん。それはネルエラ陛下の権限を侵すことになる。……ただ、今回の叙爵式はハイブリッジ騎士爵が目玉なのだ。皆、注目しておるとだけ言っておこう」
「ふむ……?」
少し気になる物言いではあるが、悪意は感じない。
生意気な新興貴族の叙爵を取り消して処刑……などという事態はなさそうだ。
とりあえず、王都へ行く準備を進めておくことにしよう。
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