俺がくつろいでいる『猫のゆりかご亭』に侵入してきたチンピラ3人。
彼らはベッド上の膨らみへ短剣を突き刺した。
どうやら、『ダダダ団に楯突いた下級冒険者タケシ』を始末しにきたらしい。
だが――
「バカな!! どうなってやがる!?」
チンピラたちが狼狽している。
仕留めたと思っていたのに、蓋を開けてみれば身代わり人形が置いてあったのだから当然の反応だろう。
しかも、ご丁寧に顔の部分には『ハズレ』の文字が書かれている。
今がチャンスだな。
動揺して、3人とも隙だらけになっている。
「――【影縫い】」
「「「うぐっ……!!!」」」
俺は天井から床に降り立ちつつ、影魔法を発動する。
これで、コイツらを拘束することができた。
「な、何をしやがった……!?」
「体が動かねえ……」
「ど、どうなってやがる。いったい誰の仕業だ?」
「教えてやろうか?」
俺は闇の衣装に素早く着替えた上で、ゆっくりと3人に近付いていく。
すると、3人の顔が引きつった。
「我らはダークガーデン。闇に潜み――闇を狩る者」
「だ、ダーク……?」
「ガーデン……」
「な、なんだテメエ――ガッ!?」
「騒ぐな。人目につくと、お互いに困るだろう?」
俺は影魔法の出力を上げる。
これにより、彼らはより強く影に縫われたことになる。
「知っているか? 影魔法というものを」
「…………」
「俺は聞いているんだ。影魔法がどういうものか知っているか?」
俺は声に威圧感を込めてチンピラたちに問う。
「ヒッ……。た、多少は知っている……」
「ほう? 続けろ」
「今お前が使っている『影縫い』は最初級の影魔法だ……。相手を拘束できる……。他にも、影を使って惑わしたり影の刃で攻撃したりできると聞いている……」
「なるほど……。概ね正解だ。賊のくせに博識じゃないか」
チンピラにしてはなかなかの知識量だ。
自分が使えない魔法の効果をきっちり把握しているとは。
しかし、まだ不十分である。
「だが、俺が使う本当の『影魔法』については知らないようだな」
「な、なんのことだよ……?」
「それは――こういうことさ」
パチンッ!
俺は指を鳴らすと同時に、影魔法の出力をさらに上げる。
すると――
「あ、ああぁぁ……」
「うごご……」
「……ぅ……ぁ……」
チンピラたちがあっという間に虫の息になった。
最初級の影魔法『影縫い』は、相手を拘束する魔法だ。
それは正しい。
しかし、俺とチンピラたちのように魔力に大きな差があるとどうなるか?
動きを阻害するだけではなく、肺や心臓にさえ影響を及ぼすことができるわけだ。
「これが俺の本気の影魔法――【闇縫い】だ」
「「「……」」」
チンピラたちが沈黙する。
既に意識を失いかけているようだ。
俺はそれを見て、少しばかり出力を抑えてやる。
「さあ、答えてもらおうか。お前たちのボスはどこにいる? あるいは、他の幹部の居場所は?」
「……」
「だんまりか……。仕方がない」
俺はさらに影魔法の出力を上げる。
「……ぅぁ……。ま、待って……くれ……」
「話す気になったか?」
声を上げたチンピラに対する出力を下げつつ尋ねると、彼は必死の形相で首を縦に振った。
俺はそれを見て小さく笑みを浮かべ、質問を続ける。
「では、お前らのボスの名前は?」
「お、お頭は……『ダン・ド・リオン』様だ……。た、頼む……。もう止めてくれ……。これ以上は死んじまう……」
「ふん……。マフィアのくせに生きて帰れると思っているのか? 我らダークガーデンは、闇を狩る者……。お前らが無事に済むはずがないだろう。滑稽な奴め……」
俺は再び出力を上げていく。
「や、やめっ……。う……ああぁ……」
チンピラの声が小さくなっていく。
影魔法は、尋問にも便利な魔法だなぁ。
かつてアビーを違法賭博容疑で尋問した際には、幻惑魔法で羞恥責めを行った。
元盗賊のキサラやトパーズに反省を促した際には、土魔法で拘束してくすぐり責めをしたこともあった。
(あれらも有効な尋問方法だとは思うが……)
被尋問者が大声で叫ぶことになりやすいので、防音性の高い密室や近くに人がいない場所じゃないとなかなか責めを実行しにくい。
アビーは王都の地下牢で、キサラやトパーズはリンドウ郊外の温泉にて尋問したのだったな。
今回はオルフェスの街中にある『猫のゆりかご亭』での尋問なので、叫ばれるとマズイ。
そもそも、相手がチンピラの男3人というのもマイナスポイントだ。
俺は、男を相手に羞恥責めやくすぐり責めをする趣味はないからな。
そんなことを考えつつ、俺はチンピラたちへの尋問を続けていくのだった。
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