ダダダ団の本拠地へと向かっている『三日月の舞』。
その道中の雑談で、エレナはDランク冒険者タケシ(本当はタカシ)のことを二流だと断じた。
「まぁまぁ、エレナっち。タケシっちさんも頑張ってるっすよ? Dランクなりに健闘してるっす」
「ふふー。そうだねー。ダダダ団たちにボコボコにされていたはずなのに、無事だったじゃないー? ちょっと感心したよねー」
テナとルリイは、タケシ(本当はタカシ)に対して一定の評価を下している。
やはり、エレナからタケシに対する評価はやや過小だと言わざるを得ない。
「まぁ……、確かに。それは認めるわ」
「でしょー? どうしてエレナちゃんはタケシさんにそれほどキツく当たるのー?」
「……それは……」
少し言いよどむエレナ。
あまり大っぴらには言えないような事情らしい。
「まぁ、だいたい分かるけどー」
「え? どういうことっすか? 解説してほしいっす! ルリイっち!!」
勝ち気なエレナに、のほほんとしているようで観察眼が鋭いルリイ、そしてボーイッシュで大雑把なテナ。
この3人の関係性は、傍から見ると面白いかもしれない。
「タケシさんの名前が、エレナちゃん憧れのタカシ=ハイブリッジ男爵に似ているのが気に入らないんでしょー?」
「ちょ、ちょっと! 私は別にそこまでは思ってないわ! 似ているのは名前だけだし!」
「うーん。本当にそうかなー?」
「本当よ! 何年もDランクに甘んじている二流冒険者と、タカシ様をいっしょにしないでちょうだい! 彼は、平民から騎士爵を授かったばかりか、その後すぐに男爵になられたのよ! 万年Dランク冒険者なんかといっしょにするなんて、タカシ様に失礼だわ!!」
エレナは顔を真っ赤にして否定する。
だが、それはルリイの分析を肯定しているのと同じであった。
「ふふふー。まぁそれならそれでいいけどー。でも、どうしてエレナちゃんはそこまでハイブリッジ男爵に入れ込んでいるのー?」
「オレっちも不思議に思っていたっす! 確かに凄い人だとは思うっすけど、一度も会ったことがない人にそこまで入れ込むなんて、普通はないと思うっす! 何か理由があるんじゃないっすか?」
「あら? 今さらそれ? ――まぁいいわ。仲間のあなたたちには、ダダダ団を潰す前にはっきりさせておきましょう」
エレナはそう言うと、一度深呼吸をする。
そして、意を決するように口を開いた。
「私は、かつて孤児だったのよ。スラム街の路地裏でゴミのように生きてきたの」
「え? それは初耳……」
「エレナっちにそんな過去が……」
エレナの告白を聞き、テナとルリイが言葉を失う。
「私は当時、毎日を生きるだけで精一杯だった。食事も満足に取れなかったし、着るものだってボロ切れ一枚だった。お腹が空いて動けなくなったときもあった」
エレナは当時のことを思い出しているのか、辛そうな表情を浮かべながら話す。
そんな彼女の話を受けて、テナがハッとした表情を浮かべた。
「わ、わかったっす! そんな日々を救ってくれたのが、ハイブリッジ男爵――」
「テナちゃん、そんなわけないでしょー……。ハイブリッジ男爵が領主として活躍を始めてから、まだ2年も経っていないんだからー……」
「あ、そうかっす」
早とちりをしたテナに対して、ルリイがツッコミを入れる。
落ち着いて整理すれば、当たり前のことだ。
エレナは今20歳前後であり、数年以上前から冒険者として活躍している。
孤児として苦しんでいたのは、彼女が10歳にもなっていない時期のことだ。
一方、タカシ=ハイブリッジが爵位を授かったのが1年半ほど前。
孤児のエレナをタカシが救うことは、物理的に不可能だ。
「私は結局、自力で立ち直ったの。少しずつ貯金して、冒険者の小間使いとして頑張って……。隙間時間に教えてもらった火魔法に才能があったおかげで、なんとか生活も安定するようになった」
「なるほどっす。そういうことだったっすか。大変だったっすね……」
「うん。エレナちゃん、よく頑張ったねー」
「ありがとう。今やCランクにまで昇格したのは、あなたたちのおかげでもあるけどね」
エレナたちが絆を確認し合う。
こうして、彼女たちの雑談は進んでいく――
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