ふと気が付くと草原に立っていた。
天候は晴れ。
風が涼しげにざわざわと吹いている。
「ここはどこだ……?」
辺りの様子を探る。
見覚えのない草原が遠くまで広がっている。
俺はサザリアナ王国の貴族だ。
日本から異世界に転移したあと、ミティやアイリスを幸せにするため奮闘して……。
……ん?
ええっと、あれ……?
ミティ?
アイリス?
誰だっけ……?
「いかんな。記憶が混乱しているみたいだ」
改めて整理しよう。
俺は無職だ。
いつも通り、自室でゴロゴロしていたはず。
さっきの謎の記憶は何だったのだろう?
どこかで見たアニメやマンガの影響で、夢でも見ていたのだろうか?
すでに記憶があやふやだ。
どんな名前の人たちがいたかすら、よく思い出せない。
「さて、これからどうするか……。……ん?」
視界の隅で何かが点滅している。
ゲームのアイコンのようなものだ。
何やら、ステータスやミッションという項目が並んでいた。
――とりあえず俺は剣術を強化して、どこかの街を目指すことにした。
その途中で、魔物に襲われている馬車を発見。
行商人、冒険者、フードの人の3名がいた。
俺はすかさず助太刀する。
「あ、危ない!」
「きゃっ」
馬車に乗っていたフードの人は、女性だった。
俺は彼女を背中に、魔物を何とか牽制する。
「安心してください。俺があなたを守り抜いてみせます!」
「あ、ありがとうございます」
俺は女性に笑いかける。
そのとき――ちょっとした突風でフードが脱げた。
「あっ……」
俺は絶句する。
その女性の顔は、とても美しかった。
それに、可愛かった。
「あ、あなたは……?」
「私は……ミティと申します」
彼女はそう名乗る。
この出会いは運命だ!
俺はそう確信する。
勢い任せに魔物を討伐した俺は、改めてミティに向き直る。
「あの……私の顔に、何かついてますか?」
「いや……。その……」
俺は口ごもってしまう。
ミティの可愛さに見惚れたなんて言えない。
「俺と結婚してください!!」
俺は勢いで求婚してしまう。
これが俺とミティの出会いだった。
――その後、彼女の身分が奴隷であることを知った。
価格はなんと……金貨400枚。
とても払えない。
だが、その程度の障害で諦められるほど、俺の愛は軽くなかった。
「さぁ、マイエンジェル・ミティ。今日から君は俺のものだ。他の誰にも渡さない」
「は、はい……」
俺は金貨400枚の借金をして、ミティを購入した。
異世界に来た即日に、凄まじい額の借金をしたのである。
身元が怪しい上、前金もない状態だったのでかなり悪い貸し付け条件だった。
金利は高く、借金を完済するまで街から出てはいけない。
しかも、返済が滞った場合に俺は奴隷に堕とされてしまう。
だが、幸いにして俺にはチートがある。
その効果はまだ検証中だが……。
たぶんきっと、何とかなるだろう。
「冒険者もいいが、怪我が怖いんだよな」
「は、はぁ……」
「思い切って鍛冶師になってみようか。ミティはドワーフだし」
「それは……」
ミティが何か言いたそうにしている。
ドワーフといえば鍛冶が得意だろう。
そんな彼女に鍛冶をさせれば、きっと良い剣を作ってくれるはずだと思ったのだが……。
「実は、俺には特殊な技術があってね。ミティに鍛冶スキルを与えることができる。そして俺も同じく、鍛冶スキルを習得することが可能だ」
「そ、そんなことが……?」
驚愕するミティ。
俺はそんな彼女に、鍛冶術を取得させる。
これでミティも立派な鍛冶師だ。
併せて俺も鍛冶術を取得する。
その後、俺たちは満を持してラーグの街の鍛冶師に弟子入りした。
そして、着実に実力を伸ばしつつ借金を返済していくのだった。
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