無月を闇忍のトップに任命してから、数日が経過した。
「高橋殿、我に指令を与えてくれ」
「儂らは貴様に従う。そう決めたからには、指示が欲しい」
2人の男が俺にそう言ってきた。
彼らの名は金剛と雷轟。
桜花七侍を務めおり、かつては景春の指示で俺と敵対した者たちだ。
「まぁ待て。本格的な指示は追って連絡する。だが……そうだな。しばらくは城内の治安維持に努めてくれ」
「分かった」
「承知した」
雷轟と金剛は素直に頷く。
無月に続き、俺に恭順したのがこの2人だ。
桜花七侍の中でも多少の派閥はあったらしく、無月・雷轟・金剛は同派閥だったようだ。
いや、むしろ他の4人が派閥を形成していたと表現した方が正確か。
前藩主の時代から引き続き桜花七侍を務めている樹影が、実質的なトップ。
夜叉丸・蒼天・巨魁の3人は樹影の派閥に属していた。
比較的若く未熟な3人を樹影が指導していた……と表現してもいい。
無月は闇忍のトップも兼任していたため、樹影からの干渉を受けにくく独立性が強かった。
雷轟は雷鳴流道場の師範でもあり、自らの流派を広めるための足がかりとして桜花七侍に所属していた。
金剛は桜花七侍の一員としての意識よりも、とにかく藩主への忠誠心が強かった。
景春個人ではなく、あくまで藩主への忠誠心だ。
謀反という形ではあるが、曲がりなりにも藩主となった俺に従うことに抵抗はなかったらしい。
そういった事情もあり、無月・雷轟・金剛は俺に従っている。
無月とは異なり、雷轟と金剛には加護(小)を付与できていないが……。
これでも忠義度30は超えているし、十分すぎるだろう。
次のターゲットは、夜叉丸・蒼天・巨魁の3人だ。
彼らを懐柔できれば、いよいよ景春絡みの計画を実行できる。
景春を屈従させられれば、双子の妹コンビや樹影の反抗心も失せるはず。
俺が桜花城を完全に掌握するのも、時間の問題だ。
「主、報告がある」
「ん?」
俺は声をかけられ振り向く。
そこに立っていたのは無月だった。
「おお、無月か。なんだ? 話とは」
「幽蓮の懐柔と再教育が行き詰まっている。どうか、主の力をお貸し願いたい」
「ふむ……?」
そういえば、さっきも黒羽と水無月の2人がそんなことを言っていたな。
幽蓮……。
あの蹴り飛ばした少女か。
「よし、処刑しよう」
「処刑……っ!? せ、せめて再教育を……!」
「いや。俺に反逆した者を許すわけにはいかない」
「しかし、再教育が上手くいけば……」
「安心しろ。俺に任せておけ」
「む……。わ、分かった……」
無月は不満げながらも頷く。
さて、ここが腕の見せどころだな。
元藩主の景春の一件は、慎重に事を進める必要があるが……。
せいぜい『闇忍の有望株』程度である幽蓮なら、失敗しても問題ない。
処刑の練習にはもってこいだ。
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