タカシとユナがアカツキ総隊長と対峙している頃。
ミティはガーネット隊長と交戦していた。
”負け知らずの戦闘狂”と称される、高い戦闘能力を持つ女性の隊長である。
いや……。
交戦というと語弊がある。
「はあ、はあ……」
ミティは逃げていた。
木々が生い茂る森の中を、彼女はジグザグに逃げ回る。
「ははははは! お嬢ちゃん。足はそれなりに速いようだな! しかし、逃げるだけじゃ私には勝てんぞ!」
追いかけるガーネットがそう言う。
この追いかけっこを楽しんでいる顔をしている。
彼女は興奮した顔のまま、追撃の投擲を行う。
「そらそらあ!」
「うっ」
ガーネットが投擲したいくつかの石がミティに当たる。
彼女が痛みにうめくが、逃げる足を止めることはない。
ガーネットは、戦闘狂という二つ名ではあるが、考えなしに突進するような戦闘スタイルではない。
彼女はあらゆる戦闘技法に精通していた。
相手が逃げ回るのであれば、追撃としての投擲を行うまで。
先ほどからガーネットが投擲しているのは、握りこぶしほどのサイズの石だ。
1つ1つは致命傷になりはしない。
しかし、度重なる投石はミティの体力をジワジワと削りつつあった。
「(ここじゃダメ……。もっと離れないと)」
「ははははは! もっと私を楽しませろ! いい声で鳴いてくれ!」
興奮したガーネットが、ミティを追跡していく。
投擲により、ミティにダメージが蓄積していく。
ミティは劣勢に追い込まれていた。
●●●
ミティがガーネット隊長から逃げ回っている頃。
アイリスは、オウキ隊長と交戦していた。
”過去何度も死線をくぐり抜けてきた不死身の男”と称される、高い耐久力を持つ男である。
「いくよ! はああ! 砲撃連拳!」
「ぬうう! 効かぬ!」
アイリスのパンチの連撃を、オウキが平気な顔をして防ぐ。
彼はフルプレートの防具を着ている。
生半可な攻撃は効かない。
「ふはは! まさか、丸腰で戦いに臨む者がいるとはな。それで我に勝てると思っているのか?」
「思ってるよ。……はああ! 裂空脚!」
「ふん!」
アイリスの鋭い回し蹴りを、オウキが受け止める。
「効かぬわ! たかが格闘でこのフルプレートの防御は破れぬ。諦めるがよい」
オウキが淡々とそう言う。
ダメージを与えられないのであれば、アイリスに勝ち目はない。
はたして、この勝負はどうなってしまうのか。
●●●
アイリスがオウキ隊長と交戦している頃。
モニカは、カザキ隊長と交戦していた。
”わずか19歳で隊長に抜擢された天才”と称される、若手の有望株だ。
「……はああ! 裂空脚!」
「おっと!」
モニカの鋭い回し蹴りを、カザキがひらりとかわす。
「危ねえ危ねえ。思ったよりも速いじゃねえか。こりゃ、距離を取って戦わないとな」
カザキがそう言って、モニカから距離をとる。
「距離を取ってもいっしょだよ」
「なんだと?」
モニカが小声で雷魔法の詠唱を進める。
「……我が敵を撃て! ライトニングブラスト」
「む!? うおおっ!」
カザキが高速反応で何とか雷魔法を回避する。
見てから回避余裕でした。
「ちぇっ。これも避けられたか」
「なるほどな。近づけば格闘、離れれば雷魔法か。厄介な嬢ちゃんだぜ」
「それほどでも。できれば降参してくれるとありがたいんだけど?」
「いや、そういうわけにはいかねえな。これでも隊長なんでね。それに、嬢ちゃんの戦闘スタイルには弱点がある」
「弱点? そんなものはない。いくよ!」
モニカが再び接近して格闘戦を仕掛けようとする。
しかしその前に。
「……爆ぜろ! リトルボム」
ボン!
カザキとモニカの間で、何かが爆発した。
カザキの爆破魔法だ。
モニカにダメージはない。
辺りに砂埃が発生し、モニカがカザキの姿を見失う。
「くっ。どこへ……」
「……爆ぜろ! リトルボム」
どこからかカザキの声がする。
爆破魔法による追撃だ。
小さな火の玉のようなものがフラフラと飛んでくる。
それが地面にぶつかり、爆ぜる。
モニカは何とか爆破を避ける。
そして、カザキの声がした方向を見る。
上だ。
「なっ!? と、飛んでる……?」
「そうだぜ! これが俺の戦闘スタイル! 希少な爆破魔法と重力魔法の合わせ技だぜ!」
カザキが空を飛びながらドヤ顔でそう言う。
正確に言えば、飛行というよりは滑空に近い。
重力魔法で自身の体重を軽くし、爆破魔法による爆風で空に飛び立つ。
腕に仕込んでおいた翼のようなもので、ゆっくりと滑空する。
このときも重力魔法をかけ続けているので、通常よりも滞空時間は長い。
そしてある程度降下してきたタイミングで爆破魔法を使い、再び飛翔する。
こうして、擬似的な飛行能力を得ているのだ。
「へへへ。空を飛ぶ相手には手も足も出まい! 格闘はもちろんだが、雷魔法も上方への射出には不向きだからな!」
「くっ。でも、攻撃できないのはお互い様だよ」
「そうでもねえぜ! ……爆ぜろ! リトルボム」
カザキから放たれた爆破魔法が、モニカを襲う。
何とか回避はするが、爆発の余波によりじわじわとダメージが蓄積していく。
「へへへ。勝負は見えたなあ! こりゃ相性のいい相手と当たったもんだぜ!」
カザキがそう言う。
確かに、彼はモニカにとって相性の悪い相手だ。
はたして、モニカはこの劣勢をくつがえすことができるのだろうか。
●●●
モニカがカザキと交戦している頃。
ニムは、ダイア隊長と交戦していた。
60歳にしていまだ現役の、ベテランの隊長である。
「ご、ご老体といえども容赦はしません。降参するならば、今のうちですよ?」
「ほっほっほ。生きのいいお嬢ちゃんじゃの」
ニムの強い言葉を、ダイアが気にかける様子はない。
どこ吹く風だ。
「降参するならば今のうちか。それはこっちのセリフじゃの」
ダイアが優しい目でニムを見る。
彼が言葉を続ける。
「ワシには、君ぐらいの孫がおっての。痛めつけるのは心が痛い。抵抗せんでおくれ」
「そ、そういうわけにはいきません」
ダイアからの降伏勧告に、もちろんニムは応じない。
彼女は、タカシに恩義を感じている。
そのタカシがこの村の力になると言っているのだから、彼女もそれに従うのである。
それに……。
ニムは、タカシによって強化された自分の力に、自信を持っていた。
メルビン杯で1回戦を突破したのは記憶に新しい。
そんじょそこらの相手にはやられるつもりはない。
ニムの強い目を見て、ダイアがため息をつく。
「やれやれ。仕方がないの。……行くぞ、鉄刀カグラ」
男が剣を抜く。
彼は熟練の剣士であった。
「自分の血でも見れば気が変わるかの。顔には傷をつけないように気をつけるがの。もしもということもある。降参したくなったら、早めに言うのじゃぞ」
「そ、それはこっちのセリフです!」
ダイアとニムの戦いが始まる。
両者、少し離れたところでにらみ合う。
緊迫した雰囲気が流れる。
ニムの集中力が少しだけ切れた、その瞬間。
ダイアが動く。
「抜刀術居合……古閑の太刀」
「うっ!」
ダイアの高速の居合術により、ニムが傷を負う。
ダイアのスピードはかなりの水準である。
視力強化などを取得していないニムでは、反応し切れない。
「ほほ。今のは薄皮1枚を斬っただけじゃ。もう1度言おう。早めに降参してくれ。悪いようにはせん」
「そ、そういうわけにはいきません。ユナさん、それにタカシさんのために」
ニムの精神力は強い。
10歳と少しの少女とは思えない精神力である。
彼女は徹底抗戦の構えだ。
はたして、戦局はどちらに傾くのか。
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