【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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1707話 四神地方・紅炎藩【ユナside】

公開日時: 2025年4月4日(金) 12:10
文字数:1,058

 四神地方、紅炎藩(こうえんはん)――。


「はぁ……。いったい、どういうつもりよ?」


 呆れと苛立ちを込めて吐き捨てるように言った少女の声は、静寂な大広間に不釣り合いなほど鮮やかに響いた。

 目の前に並ぶのは、額を畳にこすりつけるようにしてひれ伏す数人の侍たち。

 剃り上げた頭皮に滲む汗が、床にぽつり、ぽつりと落ちていく。

 どの顔も土色をしており、侍の誇りなどどこへやら、懇願の気配だけがその場を支配していた。


「すまぬ……。事情が変わったのだ。例の試練を受けてはもらえぬだろうか?」


 先に口を開いたのは、白髪混じりの壮年の武士。

 彼は紅炎藩の重鎮だ。

 顔には戦場を生き抜いてきた者特有の傷跡が走り、言葉の端々にどうしようもない焦燥が滲んでいる。

 そんな彼の願いに対する答えは、冷たいものだった。


「あんたたちの事情なんて、知ったこっちゃないわよ」


 少女は侍たちを睨みつけるように見下ろし、赤く長い髪をかき上げた。

 燃え立つような髪色はこの紅炎の地においても際立っていて、まるで彼女の怒気を映しているかのようだった。

 だが、彼女の反応にひるむことなく、別の若い侍が言葉を継いだ。


「そこを何とか……。このまま問題を放置すると、四神地方の勢力図が乱れ……やがては大和連邦全体を巻き込んだ大戦乱になる恐れがあるのだ」


 声は震えていた。

 責務と恐怖、あるいは良心の呵責。

 すべてが混じったその言葉は、単なる政治的な策略以上の重みを帯びていた。


「はぁ?」


 少女の返答は短く、そして鋭い。

 彼女は組んだ腕を解くこともなく、ただ一歩、音もなく前に出た。

 その動きに、一瞬だけ侍たちの背筋がこわばる。


「……我らは武士。戦いに死ぬ覚悟はできておる。だが、大戦乱になれば、無辜の民にまで多大な被害が及ぶ。それは避けねばならぬ」


 重く、低い声だった。

 嘘偽りのない、その言葉。

 少女の視線がわずかに揺れた。

 短く息を吸い、そして彼女は口を閉ざす。


「…………」


 沈黙が広がる。

 その無言の奥で、少女の中に小さな葛藤が芽生えつつあった。

 火のように奔放で、山野に生きる狼のように自由な彼女にとって、他人の事情など本来は関係のないものだ。

 だが――その瞳の奥には、確かに『人の苦しみ』に対する同情心が見えた。


 侍たちはそれを見逃さない。

 機を逃さず、さらに言葉を重ねる。


「これは夕奈(ゆな)殿にも利のあることだ。業火の試練を突破すれば、大和神の一柱から多大なる恩恵を受けることができるのだぞ」


 火のように熱い言葉。

 揺れる感情の火種に、追い打ちをかけるような甘言。

 夕奈と呼ばれた少女は一度だけ目を細め、眉を寄せた。

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