蓮華がエルフとの一騎打ちに見事勝利を収めた頃――
同じ重郷地方のさらに西部に位置する雲雀藩(ひばりはん)では、誰もが驚くような偉業が成し遂げられつつあった。
「お、おおお……!?」
「見たか、あれを!」
「信じられない……本当にやり遂げたのか!」
「あんな少女が、村の力自慢たちを倒すなんて!」
村の広場には数十人の男女が集まり、熱狂的な歓声が響いていた。
村人たちの目は、一人の少女に釘付けだ。
彼女は広場の中央で小さく息を整え、周囲の熱い視線に戸惑いながらも、やわらかな笑みを浮かべていた。
「えへへ~。みんな、応援ありがとね~!」
少女は片手を軽く振りながら、はにかんだように礼を言う。
その仕草はどこか愛嬌があり、見る者を自然と笑顔にさせた。
不思議な魅力を持った彼女の名前は、神宮寺花。
一見して普通の少女に見えるが、実は彼女はとある名門の血筋を引く特別な存在だ。
しかし、そんな彼女の素性を知る者は、この遠く離れた雲雀藩には一人もいない。
花自身もそのことを気にしている素振りはなく、周囲には無邪気で親しみやすい性格として知られている。
それに比べて、もし彼女の妹たち――たとえば、勝ち気な月や実利主義の雪――が同じようにこの場に姿を現していたなら、きっとその特異な雰囲気が隠し切れず、素性が露見してしまっていただろう。
だが花は、どこかのんびりとして人の警戒心を解くような性格の持ち主であり、正体がバレることはなかった。
そんな彼女が、今日の村の一大イベントである『百人抜き』に参加し、見事に文字通り百人を倒して優勝を飾ったのである。
「ふふ~。これで……えっと、何だっけ?『百人抜き』のお祝いで、食べ放題になるんだよね?」
花は勝利の余韻に浸るでもなく、きょとんとした表情で村人の女性に尋ねる。
その問いは拍子抜けするほどあっけらかんとしていて、周囲の村人たちも思わず苦笑する。
「そうですね。村の代表に選ばれた方は、英気を養うために一時的にあらゆる歓待を受けられます。もちろん、食べ放題もその一つです」
答えたのは、この村の年長者の一人である女性だった。
その声には、どこか微笑ましいものを見守るような優しさがにじんでいた。
「やったー! たくさん食べるぞ~!」
花はその言葉を聞くや否や、子供のように両手を挙げて喜びの声を上げる。
その無邪気な反応に、村人たちからはまたしても笑い声が漏れた。
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