キサラへのくすぐり刑は終わった。
いや、正確に言えばまだ魔導具によるくすぐりは継続中なのだが、俺が直接手を出すことをやめたのだ。
「――ッ! ――――ッ!!」
キサラが何やら喚いているが、無視する。
タオルを噛ませているので、彼女から意味のある言葉が発せられることはない。
しばらくは放置だ。
そして、次の標的はトパーズである。
「あ、あの……やめてくだ――」
「却下だ! 大人しく受けるんだ!!」
俺は有無を言わせぬ口調で言い放つ。
この期に及んで抵抗しようとするなんて生意気な奴だ。
俺はキサラの時と同じように、魔導具に魔力を込め始めた。
すると、ローラーが激しく回転を始める。
「きゃあぁっ!?」
トパーズは可愛い声を上げて身をよじる。
「うひゃはははっ! あひゃひゃっ!!」
キサラと同様に、凄まじいくすぐったさが彼女を襲っているようだ。
彼女は必死に身をよじるが、ミニゴーレムによる拘束を振りほどくことはできない。
キサラとは違って、トパーズの身体能力はさほど高くないしな。
キサラですら無理なのだから、トパーズがこの拘束を解くことは不可能だ。
「くひっ! いひっ! あはははっ!!」
「おい、キサラ。くすぐり仲間ができたぞ。何か言ってやれ」
「――ッ! ――――ッ!!」
キサラは噛まされたタオル越しに何かを言おうとしているが、言葉にはならなかった。
少しかわいそうな気もするけど、仕方がない。
これも彼女を更生させるための処置だ。
「いやーーーーーーっ!!!!」
トパーズは悲鳴を上げ続ける。
こいつの反応はキサラとはまた違った感じだな。
キサラは笑い転げているが、トパーズは泣き叫んでいる。
「さぁ、ノノン。トパーズに――いや、『闇蛇団』に復讐する時が来たぞ。存分にくすぐるといい。遠慮は不要だ」
「は、はいっ!」
ノノンは元気よく返事をする。
「く、くふっ……。や、やめてください……。お、お願いします……」
「やめません! 私はあなたたちに受けた仕打ちを忘れていません! お返しさせてもらいますっ!!」
「いやっ! いやぁっ! やめっ――」
パシンッ!
「痛いっ!?」
ノノンは濡れタオルをしならせ、トパーズのお尻を叩き始める。
「こ、こんなことまでされるなんて……! あんまりです……!」
「まだまだ終わりじゃないですよ!」
「いやあああああっ!! うひひひひ!!!」
トパーズは涙を流し、大声で叫ぶ。
彼女は20代で、ノノンは12歳。
遥か年下の少女に尻を叩かれるなんて、屈辱以外の何物でもないだろう。
しかも、それだけじゃない。
俺が作動させたローラーの魔導具は、トパーズの足裏で回転し続けている。
屈辱、尻の痛み、足裏のくすぐったさ……。
トパーズが受けている責め苦は想像を絶するものだろう。
「あはははっ! ごめんなさい! ごめんなさいっ! あひゃははっ!!」
トパーズは、謝罪の言葉を口にしながら笑う。
しかし、そんな言葉はなんの意味も持たない。
パシンッ!
パシィンッ!!
「うひゃひゃひゃっ!! やめっ!! やめてぇっ!!」
20代の女性が、幼い少女から尻を叩かれるという光景。
そのあまりにも酷い絵面に、俺は思わず目を背けたくなる。
だが、ここでトパーズに情けをかけるわけにはいかない。
ちゃんと反省しているかどうか、見極める必要がある。
俺は彼女の醜態をしっかりと目に焼き付けていく。
決して、邪な意図はない。
「あはははっ! あひゃははははっ!!」
それからしばらくの間、トパーズの甲高い悲鳴が響き続けた。
そして――
「ほ、本当に無理なんです! 男爵様! ノノン様! もう勘弁してください!!」
トパーズの必死な叫びが聞こえてきた。
俺はともかく、いつの間にかノノンまで『様』を付けて呼ばれているな。
20代の妖艶な女性が、12歳の膨らみかけの少女に様付け……。
これはこれでアリだな!
「どうした? トパーズ」
「わ、私……これ以上くすぐられると、おかしくなってしまいそうで……! あひゃははっ! どうか、許してくださ――」
「ダメです!」
パシィンッ!
ノノンがトパーズの尻を叩きつつ、要望を一蹴した。
「ダメなそうだぞ?」
「あひゃははっ! そ、そんなぁっ!!」
「大丈夫ですよ! すぐに楽になりますから!」
「うひひひっ! た、助けてぇっ!!」
「とうっ!」
ノノンは掛け声と共に力いっぱいトパーズの尻を叩く。
「あっ……」
不意に、トパーズが力の抜けた声を漏らす。
チョロチョロ……。
水音が鳴り響く。
「ちょっ……! おいおい! 温泉にションベンを垂れ流すな!!」
「うひひぃっ! だ、だってぇ! もう無理だって言ったじゃないですかぁっ!!」
「我慢しろ! 早く止めるんだ!!」
「あひひひっ! 無理ぃっ!! 無理ですぅっ!!」
トパーズの股間から漏れ出した液体が、湯船に広がっていく。
開発中の温泉とはいえ、流石に汚いな……。
いや、俺個人としてはさほど気にしないのだが、他の者たちは別だろう。
マリア、リン、ロロ、ノノンたちは、トパーズに対して冷たい視線を送っている。
「トパーズお姉ちゃん……。おしっこ漏らしちゃったんだね……」
「大人なのに……。恥ずかしい人ですぅ……」
「…………(こくっ)」
「ふふふ。こんな人たちがかつて闇の組織として一大勢力を誇っていたなんて、信じがたいですね。ねぇ、騎士様?」
「あぁ……。全くだ」
ノノンの言葉に、俺は同意する。
「くくくっ……。トパーズよ。お前はくすぐりに耐えられなかったのだ。大人なのに情けない奴だな。ちびっ子たちの前でお漏らしとは……」
「うひひぃっ! ご、ごめんなさいぃっ! あはははは……!!」
「謝る必要はない。くすぐりは耐えられないほど気持ち良かったということだろう?」
「き、気持ちよくなんかないです! こ、こんなの地獄です!!」
「ははは。照れるな照れるな。今後も気が向いたらくすぐってやる。楽しみにしていろ」
「えぇ!? い、嫌です!! お願いします! やめてください!!」
「ダメだ。俺の命令は絶対だからな」
「そんなぁっ!!」
トパーズは絶望的な表情を浮かべていた。
「そんなことより、隣を見てみろ。キサラはちゃんと耐えているじゃないか。やはり非戦闘職のお前は、堪え性がなかったようだな」
トパーズは『闇蛇団』の一員であり、違法カジノの案内人を務めていた。
戦闘はからきしである。
一方のキサラは『黒狼団』の一員であり、高い戦闘能力を有している。
そのため、トパーズが耐えきれずにキサラが耐えられたとしても、不思議はない。
「よく耐え切ったな、キサラ。見直したぞ」
「…………」
俺はキサラに声を掛けるが、彼女は無言だった。
「ん? どうした?」
「……あへぁ…………」
よく見ると、キサラは白目を向いていた。
そして股間からは、小水が滴っている。
なんということだ。
トパーズの方に集中していたから気付かなかっただけで、キサラも限界を迎えていたようだ。
「……仕方ない。お仕置きはこれぐらいにしてやるか」
俺はトパーズとキサラを解放し、休ませてあげることにしたのだった。
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