あの後、ハルトマンに声をかけた。
彼のパーティと、俺とミティ、そしてもう1組のパーティを加えて合同で狩りをすることになった。
ハルトマンが3パーティ全体のまとめ役だ。
3組合同での狩りだ。
ハルトマンのパーティが4人。
新たに加わったパーティが3人。
それに俺とミティ。
全員がDランク以下とはいえ、合計9人での合同パーティとなる。
それだけリトルベアは油断できない相手だということだ。
気を引き締める。
森に入り、あたりを歩き回る。
歩き回る。
ほどなくして、1体のリトルベアを見つけた。
以前見た個体よりも、少し小さめだ。
向こうはまだこちらに気づいていない。
まとめ役のハルトマンから、指示が下る。
「タカシ、頼む」
「ええ、わかっています」
あらかじめ段取りを決めている。
まずは俺が遠距離から火魔法で攻撃だ。
ボルカニックフレイムとファイアートルネード、どちらがよいか。
ボルカニックフレイムは、避けられてしまったときに、火炎が後方まで飛んでしまう。
森へ引火し、森林火災になる恐れがある。
ファイアートルネードは範囲指定の攻撃なので、避けられても思わぬ被害は生じにくい。
この環境では、ファイアートルネードが無難だろう。
心の中で魔法の詠唱を開始する。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
ごうっという音と共に火の竜巻が発生し、リトルベアを襲う。
奴が悲鳴をあげる。
なかなかのダメージを与えたようだが、まだまだ元気そうだ。
こちらに気付き、威嚇の声をあげる。
奴が近寄ってくる。
「投石、いきます! でやぁっ」
そこへミティの投石が襲い掛かる。
投“石”というか、もはや投“岩”だ。
恐ろしい腕力だ。
「すげえな……」
投擲で攻撃するということは事前にハルトマンや他のメンバーにも話していた。
しかし実際に見ると、想像以上の光景だったようだ。
彼らから驚きの声が漏れている。
まあ無理もない。
知っている俺でも、いまだに驚く。
あの小さな体で、あんなに大きな岩を投げるのだからな。
彼らは驚いてはいたが、Dランクとはいえさすがにプロ。
すぐに気を取りなおして、戦闘モードに切り替えた。
弓などの遠距離攻撃の手段を持つものが、リトルベアを迎撃している。
奴が接近してくるまで、できる限りのダメージを与えようという戦略だ。
そして、とうとうこちら側のすぐそばにまでやって来た。
近接職の出番である。
今回は俺も前線で戦う。
と言いたいところだが、俺は後方でファイアーアローを中心に火魔法を連射することになっている。
ミティも後方から、投石で攻撃している。
今回の9人の合同パーティには、弓士が2人いる。
中級以上の魔法を使えるのは俺だけ。
一般的なDランクパーティには中級以上の魔法使いはあまりいないようだ。
その2人の弓士と俺とミティを除けば、残りの5人全員が近接戦闘職であった。
俺とミティまで近接戦闘に加わると、パーティとしてのバランスが悪くなる。
リトルベアの一撃は重い。
Dランククラスの身体能力と防具性能では、奴の攻撃を受けきれない。
奴の攻撃は、避けるのが前提となる。
もし近接戦闘職が密集して戦うと、奴の攻撃を避けきれない可能性が高まる。
そうならないための、今回の編成だ。
近接戦闘職の5人が、無理をせずにリトルベアの気を引き付ける。
その隙をついて、火魔法、投石、弓でちまちまと削っていく。
9人もいるのだから一気にいけそうな気もする。
しかしその油断が命取りなのだ。
安全第一。
安全第一だ。
問題なく戦えている。
奴の体に傷が増えていく。
順調だ。
しばらくはそのまま戦闘が続いた。
リトルベアはもうずいぶんと弱っているようだ。
そろそろ頃合いか。
奴の動きが鈍ってきたら、俺が大きめの火魔法を、そしてミティが大きめの岩を投げる算段になっている。
「とどめの火魔法、いきます!」
ハルトマンたちに声で知らせる。
彼らが、少しだけリトルベアとの距離をあける。
隣のミティを見る。
ミティがうなづく。
よし、まずは俺からだ。
心の中で魔法の詠唱を開始する。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
火の竜巻が奴を襲う。
もうフラフラだ。
近づいて普通に剣でとどめを刺せそうな気もする。
しかし念には念を入れる。
「ミティ、今だ!」
「どっせぇぇい!」
おっさんが使いそうな掛け声だが、ミティが言うと可愛く聞こえるから不思議だ。
巨大な岩が奴に向かう。
最初に投げたものよりも大きい。
とどめを確実に刺すための岩だ。
「ぎゃうっ!」
岩がリトルベアに直撃し、奴は倒れた。
念のため、近づいて首を切り落とした。
これで討伐完了だ。
1匹目のリトルベアの討伐は無事に終了した。
なんだ。
Dランクの俺たちだけでも、じゅうぶんにやれるじゃないか。
余裕だ余裕。
まったく危なげなかった。
ハルトマンが声をかけてくる。
「無事に討伐できたな。タカシの火魔法が大きいよ。頼もしいな」
「いえいえ。これぐらいなんてことありませんよ。この調子で2匹目もさくっといきましょう」
「2匹目に挑戦するのか? まあ確かに、タカシのおかげで皆の消耗も少ない。やれないことはないと思うが……」
「余裕ですよ余裕。ガンガンいきましょう」
今思い返すと、ちょっと調子に乗っていたかもしれない。
この後、少し痛い目に合うことになった。
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