「お前も楽にしろ、無月」
「はっ。それでは、失礼する」
俺の言葉を受け、女忍者が楽な姿勢を取る。
彼女は、先ほど早雲と共に入室してから静かに待機していた。
名前は無月。
桜花七侍の一人だ。
雷鳴流道場が絡んだ桔梗誘拐事件の際、彼女は俺に寝返った。
俺の圧倒的な戦闘能力に屈服したのもあるだろうが、任務に失敗したことによりかつての部下から命を狙われたという事情もある。
その後、紅葉流華桔梗が同時に誘拐された際には、再び俺と敵対するような感じになり、俺は彼女を威圧して無力化したのだが……。
そのあたりは俺の早とちりや勘違いもあった。
まぁ、今は置いておこう。
「無月よ。お前には、引き続き『桜花七侍』に就いてもらいたい」
「は。七侍のうち、他の六人はどうなる?」
無月が静かに問うてくる。
「ああ、それは決まっていない。俺に服従するのか、それとも逆らうのか。それは奴ら次第だ」
俺が桜花城を攻め落としてから、既に数日が経過している。
彼らは城内の一角に軟禁状態だ。
できれば、彼らにも俺に従ってもらいたい。
いくら俺に加護付与スキルがあると言っても、万能ではないからな。
元より優秀で実権を持っている者を従えられるなら、それに越したことはない。
「さらに、無月には『闇忍』の長も任せたい」
「……そう指示される可能性はあると思っていた」
無月は表情を変えずに言う。
「だが、俺は一度失敗した身だ」
桜花藩の暗部である『闇忍』には、厳しい掟がある。
情報漏洩を防ぐためか、任務に失敗した者は容赦なく殺処分されるのだ。
トップであった無月に対してさえ、それは例外ではない。
「俺は無月に頼みたいんだ。力を貸してくれ」
「それは……」
無月が逡巡する。
そして、口を開いた。
「主の力になることに、否やはない。しかし、闇忍の掟を破り俺が長になるのは、かつての部下たちが納得しないだろう」
「む……」
「こんなこともあろうかと、闇忍の中でも有望な三人を事前に呼び出しておいた。主が許可するなら、お目通りを願いたい」
「……ふむ。まぁいいだろう」
俺としては、無月は闇忍のトップだと捗る。
とある事情により、近い内に彼女の能力は大幅に強化される見込みだ。
彼女から俺への忠義心も一定以上にあると確信できる。
しかし、桜花七侍はともかく、闇忍には独特で厄介な組織文化が形成されているらしい。
俺の強権のみでは、どうにもできない部分も多々あるだろう。
最終判断を下すのは、彼女の言う『有望な三人』とやらを見てからでも遅くない。
「では……。おい! 聞こえるな!? お目通りの時間だ!!」
無月が声を張り上げる。
すると、襖の外で何やら気配が動き出したのだった。
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