「だ、誰ですか……!?」
「……侵入者」
紅葉は警戒し、桔梗が構える。
そんな2人を守るかのように、流華が前に進み出た。
「お前……。確か、桜花七侍の……」
「ほう、私の顔を知っているのか? その通り……私は樹影。桜花七侍の一人だ」
樹影と名乗る女が、流華に視線を向ける。
年齢は40代半ばくらい。
緑色の着物を身に纏い、長い黒髪を後ろで一つに束ねていた。
「……正体は分かった。それに、目的もだいたい分かる……」
「私たちと戦うつもりですね? 見て分かる通り、私たちは桜花七侍の3人を倒しました。しかも、それぞれ1対1で」
「ふん……」
桔梗の言葉に、紅葉が続ける。
桜花藩の最高戦力が、ただの小娘に敗北した。
普通に考えて、驚愕の事態だ。
だが、樹影は平然としている。
「……つまらない」
「はい?」
「つまらないつまらないつまらない……」
「どうした、おばはん? 同僚の情けなさを見て壊れたか?」
流華が挑発する。
だが、樹影は無反応だ。
「つまらない……つまらない……」
「なに、この人……?」
桔梗も困惑する。
樹影の意識は、桔梗たち3人には向いていない。
彼女が見ているのは……蒼天たちだ。
「情けない新任のひよっ子どもめ……。こんな小娘ごときに負けるとは……」
「私たちを無視ですか……。ふざけていますね……!」
「落ち着け、紅葉。様子が変だ。ここは『見』に回ろう」
紅葉が激昂しかけるも、流華に止められる。
樹影は、流華たちには目もくれず、ただ蒼天たち3人を見ている。
「申し開きはあるのか? 青二才ども」
「う……」
「おでは……おでは……」
樹影の一言で、3人の意識が覚醒する。
だが、ダメージはそれなりに大きいようだ。
彼らはその場で首から上だけを起こし、樹影に視線を向けた。
「も、申し訳ねぇ。油断していたんだ」
「汚名を返上してみせる――。だから、どうか――」
「黙れっ! この甘ったれども!!」
「ひっ……!」
樹影が怒りの声をあげる。
その迫力に、3人は思わず身をすくめた。
「情けない……。七侍の醜態は、任命者である景春様の顔に泥を塗る。それを理解していないとは……」
「お、おでは……!!」
「黙りなさい」
樹影の圧に、巨魁たちは押し黙る。
樹影、蒼天、夜叉丸、巨魁……。
4人は、それぞれ桜花七侍の一員である。
本来は同格と言っていいだろう。
ただ、その中で樹影のみは前藩主の時代から引き続き七侍を務めている。
そのため、他の桜花七侍よりも実質的な格が上なのだ。
「油断、手加減、慢心……。甘っちょろいお前たちのことだ。小娘どもを相手に、全力を出さないことなど分かっていた」
「くっ……」
「それでもあえて、精神的な成長を期待して送り出したのだがな……。本当につまらない男だよ、お前らは」
「ちぃっ――」
樹影から強烈なダメ出しをされ、3人の顔が歪む。
対照的に、樹影の顔は少し和らいだ。
「まぁいい……。期待と予想は違うものだ」
「ほ、本当にごめんなんだな。おでたち……」
「謝罪は不要だ。……どうせ、私一人でもっていたような七侍だ。青二才どもの尻拭いをするくらい、わけないこと」
樹影はそう呟くと、改めて3人を見る。
その目は、今までの責めるようなものではなく、道具を見る目だった。
「お前らには失望したが、まだ利用価値がある。さぁ、踊り狂え。私の『血統妖術』でな……」
「うぐっ!?」
「樹影殿、何を――」
「体が……勝手に……?」
樹影が何らかの妖術を発動する。
すると、蒼天たち3人の体が宙に浮いた。
それを受け、『見』に回っていた流華たちが臨戦態勢に移る。
「……! まだやる気みたいだぜ」
「得体の知れない妖術……。慎重に戦う必要がある……」
「ええ。しかし、一度は倒した相手でもあります。3人をさっさと蹴散らして、あの樹影とやらを仕留めましょう」
「ああ……!」
3人娘が武器を構えた。
新たな戦いが始まる……。
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