「お出迎えご苦労。苦しゅうないぞ」
俺は侍たちを煽る。
その数は、ざっと30人以上。
俺を迎え撃つべく、4階で待ち構えていたらしい。
「侵入者め! この『桜花四十九侍』が相手だ!!」
「残念だったな、曲者! 本来、ここに常駐しているのは二十人ほどだが! 今朝方の異変に対する協議をするべく、今は四十九人の全員が集まっていたのだ!!」
「まさに、飛んで火に入る夏の虫! お前に勝ち目はない! 諦めて降伏しろ!!」
侍たちが一斉に刀を抜き放ち、こちらに切っ先を向けてくる。
彼らが口にした『桜花四十九侍』とは、侍のエリートたちのことだ。
桜花藩のトップ層7人が『桜花七侍』であり、その次の準トップ層49人が『桜花四十九侍』。
チート持ちの俺から見れば、1対1ならば間違いなく大したことのない奴らだ。
しかし、さすがに49人を相手にするとなると……。
「ふっ、面白い」
俺は不敵に笑う。
そして、刀を抜いた。
「流浪人ごときが! ここまで来れたのは褒めてやるが、貴様の命運はここまで――がっ!?」
「御託は要らん。来い」
俺は最初に話しかけてきた侍に斬りかかる。
その一振りで、彼はあっさりと倒れた。
「きっ、貴様ー!!」
「よくも仲間を!!」
「死に晒せ、外道がー!!」
残りが一斉に襲いかかってくる。
だが、あまり地の利を活かせていないな。
ここは桜花城の4階。
建物の中にしては開けた場所になっているが、さすがに数十人が一斉に飛び回れるほどではない。
おそらく、4階に侵入を許したのは初めてなのだろう。
彼らの連携や立ち回りはかなりぎこちない。
「はっ!」
俺は1人斬り倒し、続けて迫る3人をいなして躱す。
そして、反撃の一振りで3人とも倒した。
「な、なに!?」
「馬鹿な……。この人数が相手だぞ?」
「くっ! だが、我らは次期『桜花七侍』候補! 貴様のような流浪人ごときに、負けるはずが――」
「うるさい」
俺はゴチャゴチャと喋る侍ども3人を攻撃する。
口を動かすより、手を動かした方がいいぞ。
「ぐはっ!?」
「おぐっ!」
「こ、こんなはずでは……。なんだ、此奴の強さは……うごっ!?」
「ぎゃああぁっ!!!」
俺は次々に『桜花四十九侍』を撃破していく。
もう30人は倒しただろうか。
折り返し地点は過ぎている。
「はぁ……、はぁ……」
「ど、どうなっている……? 我ら精鋭が……」
「あり得ない……。こんなことはあり得ないぞ……」
「しかし、五階の天守閣には景春様がいる。ここを通すわけには……」
残りの『桜花四十九侍』たちは、諦めムードだ。
俺に一太刀も浴びせることなく次々に仲間が散っていたことを受け、戦意を喪失してしまったのだろう。
一部の侍だけは、主君を守る侍としての使命感からか、何とか戦意を保っているようだが……。
「お前たちに恨みはないが……」
俺はとりわけ戦意の残っている侍数人を見据える。
「俺にも譲れないものはあるんだ」
刀を構え、彼らへと突進する。
そして、そのまま一閃。
彼らは何が起きたのかすら理解できないまま、静かに倒れ伏した。
「安心しろ、峰打ちだ。すぐに治療すれば、全員の命が助かるだろう。……だが、まだ俺と戦うつもりなら、もう手加減はしない。首をはね、確実に殺す」
俺の言葉を聞いて、残りわずかとなった『桜花四十九侍』たちは恐れ慄いた。
侍としての義務感があるのか、必死に俺へ刀を向けてはいるが……。
その手は震えており、到底戦闘に耐えうるものではない。
「ふっ……。本能は正直だな」
俺は震える侍たちの隙を伺う。
隙と言っても、戦闘に関する隙ではない。
もう半分以下になった『桜花四十九侍』の陣形の穴を探しているのだ。
「そこだ」
俺は『縮地』を発動。
一瞬で彼らの横を通り過ぎる。
戦闘開始直後は戦闘意欲旺盛で、しかも49人もいたので難しかったが……。
人数が減り、残りも戦闘意欲が減っている今ならば、『縮地』で突破できる。
「くっ! 待て、貴様!」
「逃げるのか!? いや、違う……。まさか、景春様の首を狙って……?」
そんな声が後ろから聞こえる。
震える足で、必死に追いかけようとしているのだろう。
しかし、無駄だ。
人間は、死の恐怖には勝てない。
「じゃあな。俺が桜花藩を乗っ取ったら……また会おう」
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