数日が経過した。
俺たちミリオンズはハイブリッジ邸の第二リビングに集まっている。
ここは本来ビリオンズの拠点でもあるが、今日はミリオンズの貸し切りだ。
出入り口を封鎖し、少し離れたところにキリヤたち警備兵を配置している。
「さて……。みんな、よく集まってくれた」
「このメンバーのみで集まるのは久しぶりですね。つまり……」
「ああ。そろそろパーティ内のスキル編成を共有しておこうかと思ってな」
ミティの言葉を受け、俺はそう続ける。
ミリオンズのメンバーは、全員が通常の加護の条件を満たしている。
基礎レベルが上がるとスキルポイントを得ることができ、それを消費することでスキルを取得したり強化したりすることができる。
俺は誰かのレベルが上がる度に、当人と相談してスキルを取得したり強化したりしてきた。
スキル編成は自由度が非常に高い。
選択肢が無数にあるのだが、基本的には当人の意思を尊重する方針だ。
約27年後の世界滅亡の危機に立ち向かうためには、当人の志向よりも優先すべきスキル編成があるかもしれない。
しかし、どういった方向性で世界が滅亡するか不透明なのだ。
具体的に何のスキルを強化すべきか分からない。
かと言って、スキルポイントをひたすらに温存するのももったいない。
弱いままではレベリングも捗らないし、ミリオンズやハイブリッジ家のために活躍することもできないし、いざという時にスキル慣れしていなくて上手く戦えないかもしれない。
というわけで、俺たちはスキルポイントをどんどん消費している。
拘りの強い者は、当人の意思の通りにする。
パーティに関わることなので、人によってはパーティリーダーの俺やその他のメンバーと綿密に相談して決めることもあった。
「パーティ全体での共有は、およそ4か月ぶりだな」
普段はビリオンズのメンバーもいるので、ミリオンズ全員のみが揃うタイミングというのはなかなかない。
数人程度が同席するタイミングはあるし、共に狩りをすることもあるので、それぞれ特定の者とスキル編成は共有していることもある。
通常はそれで大きな問題はない。
「いよいよ遠方へ向かうから、その前にってことだね?」
「そうだ。ヤマト連邦の任務はリスクが伴うからな。連携は万全にしておきたい」
アイリスの確認に、俺は首肯する。
ハイブリッジ男爵家は王家から定期的に手紙を受け取っている。
やや遅れ気味だった隠密小型船の建造の目処が立ったらしい。
12月中旬から下旬にはオルフェスに到着するように指示されている。
ラーグの街からの距離を考えると、12月上旬には出発したい。
あと1・2週間で最終的な準備を整えていく感じだ。
「みんなのスキル編成を紙に書き出しておいた。とりあえず、目を通してもらえるか」
俺はアイテムボックスから紙を取り出し、みんなに回していく。
これはとても重要な書類だ。
ミリオンズの戦力が細かく把握できる。
流出させるわけにはいかないので、普段はアイテムボックスに保管している。
まぁ、流出したとしても対策を立てられるだけだ。
俺たち自身が弱体化するわけじゃないので、極端に心配することもないのだが。
「タカシ。赤く塗っているところが変わったところなの?」
「そうだ。前にパーティ全体でスキル編成を共有したのは7月の中旬だったはず。この4か月ほどで変わったところを塗っている」
モニカの問いに、俺はそう答える。
ステータス操作のスキルはチートだ。
しかし少しだけ不便な点として、過去ログを遡れないところがある。
そのため、俺は定期的にそれぞれのスキル編成を紙に書いてアイテムボックスに保管している。
7月中旬時点でのスキル編成と今のスキル編成を見比べ、わざわざ赤く塗ったのだ。
地味に大変な作業だったぜ。
「こ、これはわかりやすいですね」
「ふふん。でも、本人たちの感想も聞いておきたいわね。使い勝手とか」
「そうだな。それぞれ順番に、口頭で説明していく流れにしようと思う。まずは俺からだ」
俺は自分のステータスを再確認し、整理していく。
「4か月前と比べて俺が変わったのは……。まず、光魔法、幻惑魔法、マッサージ術をスキルポイントを消費して新規取得した。そして、土魔法を強化した」
光魔法はまだ最初級だが、目潰しに使える。
王都のスラムに攻め込んだ際にも活躍した。
幻惑魔法もまだ最初級だ。
魔法抵抗力が小さい者にしか大した効果を発揮できない。
しかしハマれば便利だ。
王都では、違法賭博の容疑者だったアビーたちへの尋問で大活躍した。
「マッサージ術は少しもったいなかった気もしますね……。貴族家の当主には無用なスキルでは……」
「いやいや、サリエだって大満足してくれたじゃないか」
「っ! い、いえ。私個人の満足は置いておくとして、ハイブリッジ家の将来のことを考えてです」
サリエが顔を赤くして反論してくる。
これは怒っているんじゃなくて、照れている感じだな。
「これはこれで素晴らしいスキルだぞ? 確かに戦闘能力や統治能力には結びつかないが、例の条件を満たしやすくなる」
「確かにそうかもっ! タカシお兄ちゃんにモミモミされると、とっても気持ちいいし!」
「うむ。ナオミやナオンを落とせたのもマッサージ術の影響が大きいし、今後も活躍してくれるスキルだろう」
「たかし殿の毒牙にかかる女子が今度も出るのでござるな……。いや、力を得られることを考えれば利の方が大きいでござるか……」
蓮華の言う事にも一理ある。
そこらの一般人に嫁ぐよりは、俺の愛人になった方が幸せになれる可能性は十分にある。
最大の利点は、当人の能力が強化されることだろう。
次に、貴族家として金銭面や安定性で不自由をかけないことも大きい。
一方、俺が直接的に面倒を見る時間がどうしても限られてくることはネックか。
多数の妻や愛人を囲っているため単純に時間が少なくなることに加え、冒険者としての活動中は自宅を離れることも多いからな。
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