俺とユナはアカツキ総隊長と対峙している。
「せえぃっ!」
「ぬうっ! なかなかやるな!」
俺とアカツキは、それぞれ剣を使って戦っている。
剣の腕前や身体能力は互角か、少し俺が劣るぐらいだ。
チートの恩恵を受けまくっている俺相手に優位に立つとは、総隊長という肩書は伊達ではない。
「……我が敵を滅せよ! ファイアーアロー!」
ユナが俺の後方からアカツキに向けて火魔法を放つ。
彼女は弓や火魔法で俺の援護に徹してくれているのだ。
「ちっ。ちょこざいな!」
アカツキが火魔法を避けつつそう言う。
ユナの援護を込みで言えば、俺たちがやや優位に戦いを進めていると言っていいだろう。
この調子で戦い続ければ、勝ちを狙えそうだ。
少し離れたところでは、ウォルフ村の戦士たちとアカツキの配下の兵士たちが戦っている。
あちらは乱戦気味だ。
個々の戦闘能力はウォルフ村の戦士たちに分がある。
一方で、数ではアカツキ配下の兵士たちに分がある。
総合的な戦力としては、ちょうど拮抗しているようだ。
俺とユナがアカツキに敗北してしまうと、一気に形勢が傾くだろう。
気を引き締める必要がある。
俺とアカツキ。
数メートルの距離をとり、間合いを見計らう。
剣だけじゃなくて、魔法もなんとか有効に使いたいところだ。
俺は火魔法の詠唱を開始する。
「炎あれ。我が求むるは豪火球。五十……」
「遅い! ……風神裂波!」
アカツキがその場で剣を振る。
俺と彼は少し離れた位置にいるので、もちろん剣自体は当たらない。
しかしあれは……。
衝撃波を飛ばしてきているようだ。
視力強化のスキルの恩恵により、何となく見える。
「くっ」
俺は火魔法の詠唱を中断し、衝撃波を避ける。
「ほう。あれを初見で躱すとはな。想像以上だぜ、タカシ」
アカツキがそう言う。
やはり、一筋縄ではいかない相手だ。
地道に削るしかないか。
長期戦になりそうだ。
「そりゃどうも。これでもCランク冒険者で、特別表彰者なんでね」
「なるほどな。このまま長期戦になれば、俺としても容易にはお前を倒すことはできんかもしれん」
「それはそうでしょう。俺を見くびらないでいただきたい」
「しかし……。お前はそれでいいのか? 仲間たちが俺の部下と交戦しているはずだぞ。何しろ力が有り余っているやつらだ。ついついやり過ぎてしまっているかもしれん」
アカツキがそう言う。
俺の不安を煽り、戦闘の精度を下げようという腹づもりか。
他のみんなはどういう状況だろうか。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
ステータス操作と加護の恩恵により、みんなとんでもなく強い。
しかし、今回の相手はプロの兵士だ。
相性などによっては、敗北もありうる。
まあ敗北したとしても、命まではとられないとは思うが。
……いや、それはさすがに甘く考えすぎか?
負けたら陵辱の末、惨殺されたりすることもあり得るのか?
そう考えると、今さらだが不安になってきた。
少し甘く考えすぎていたかもしれない。
「ちっ。急いだほうがよさそうか……」
思い切って真っ向勝負で短期決戦に挑めばどうなるだろうか。
6割ぐらいは俺が勝てそうな気がする。
しかし、逆に言えば4割は負けそうだ。
「ふふん。ダメよ、タカシ。あせってはやられてしまうわ」
「しかし……」
「みんなを信じましょう。信じることも戦いよ」
「……そうだな。うん。信じよう。まずは、あせらずに目の前の敵を倒すことに集中だ」
ユナのアドバイスにより、心の平穏を取り戻すことができた。
やはり、ユナは冒険者として経験豊富なだけはある。
精神力において、俺よりもはるか格上だ。
「ふっ。こんな揺さぶりでは動揺しないか。……ん?」
アカツキが横を見てそう言う。
4人の兵士がアカツキに駆け寄っていく。
「「「「報告!」」」」
「ふっ。タカシとやら。そうこう言っているうちに、他の戦いは決着が着いたのかもしれんぞ。……さて、報告をしてくれ。順に聞こう」
アカツキが余裕の表情でそう言う。
部下たちの勝利を確信している様子だ。
「ガーネット隊長、敗戦!」
「同じくオウキ隊長、敗戦!」
「カザキ隊長、敗戦!」
「ダイア隊長、敗戦!」
4人の兵士それぞれが、そう簡潔に報告する。
それを傍らで聞いていた兵士たちにどよめきが走る。
「隊長たちが敗北……?」
「う、嘘だろ」
「まさかそんな」
兵士たちのどよめきが大きくなり、狼狽が広がっていく。
チャンスだ。
このスキに切り崩すぞ!
……そう思ったが。
「うろたえるな!」
アカツキが兵士たちを一喝する。
「このアカツキがいる限り我々の敗北はありえない」
アカツキが堂々とそう宣言する。
自信に満ち溢れた言葉だ。
アカツキの一声により、兵士たちに落ち着きが広がっていく。
さすがは総隊長。
確かなカリスマの持ち主だ。
結構イケメンだし、実力もある。
ほれてまうやろー。
領軍たちに動揺が広がらなかったのは残念だが、ミティたちが無事に勝利を収めたのはいいニュースだ。
「さて。これで俺も心置きなく戦えるな。……ん?」
少し離れたところから、見慣れた人影が近づいてくる。
「タカシ様! ご無事ですか!?」
「やっほー。ボクは勝てたよ。タカシは苦戦しているみたいだね」
ミティとアイリスだ。
彼女たちが隊長たちを撃破したことは先ほど聞いた。
撃破した後、俺やユナの加勢のために駆けつけてくれたといったところか。
「私も何とか倒せたよ。やっぱり、ここの正面には強い人が来ているのかな? タカシが苦戦しているなんてね」
「わ、わたしたちが来たからにはもう安心ですよ。みんなで戦いましょう」
モニカとニムも来た。
4人ともやや疲れているようだが、大きなケガなどはないようだ。
「みんな。無事だったか」
「ふふん。別隊の精鋭たちを撃破して、ほぼ無傷とはね。やるじゃない」
俺とユナはそう言って、ミティたちを出迎える。
これで、戦況は大きく俺たちに有利になったと言えるだろう。
一定以上の実力者に限定すれば、ミリオンズ6人対アカツキ総隊長1人だ。
もちろん相手には一般兵がまだたくさんいる。
しかしそちらは、ウォルフ村の戦士たちが抑えてくれている。
「みんな、聞いてくれ。この男はアカツキ総隊長。ディルム子爵配下の兵士をまとめる立場の者だ」
「ふふん。かなりの手練だわ。心してかかる必要があるわよ」
俺とユナはそう言う。
ミティ、アイリス、モニカ、ニムとの情報共有のためだ。
しかし、これはチャンスである。
俺たちみんなでアカツキをフルボッコにしてやろう。
俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
それぞれ戦闘態勢に入る。
「ちっ。まさかてめえら、6人がかりで戦うつもりか?」
アカツキがそう言う。
少しあせっているようだ。
さすがに6対1で勝つほどの自信はないようだ。
「ふふん。その通りよ」
「ああ、もちろんだ」
ユナと俺はそう言う。
わざわざ1対1にこだわる必要はない。
「総隊長が相手ともなれば」
「卑怯などとも言ってられない」
ミティとアイリスがそう言う。
「「「「「「我ら6人で」」」」」」
「片をつけさせて」
「もらおうか」
モニカとニムがそう言う。
「ちっ。てめえらには、戦士の誇りってもんがねえのかよ」
「ふっ。そんなものがあっても、飯は食えねえ」
アカツキの言葉を、俺はそう切って捨てる。
「しかし、ルール無用になれば、結局有利になるのはこっちだぜ? 俺の全力を見せてやろう」
アカツキがそう言って、力を溜め始める。
何か奥の手を使う気か?
そうはさせるか。
「アイリス! モニカ!」
シュッ。
俺の呼びかけが終わるか終わらないかのタイミングで、アイリスとモニカが動き出した。
アイリスは聖闘気”迅雷の型”。
モニカは”疾きこと風のごとし”を発動している。
超スピードだ。
「迅・砲撃連拳!」
「スリー・ワン・マシンガン!」
アイリスとモニカ。
2人が怒涛の連撃を繰り出す。
アイリスはパンチ。
モニカはキックだ。
「ぐっ。速いーー」
アカツキが怯む。
溜めかけていた力は霧散した。
彼は一度距離をとり、体勢を立て直す。
「くっ…。おのれ! 風神裂波!」
アカツキが剣を振る。
先ほど俺に対して使った衝撃波を飛ばす技だ。
「みんな! 衝撃波が来るぞ! 避け……」
俺はそう呼びかける。
しかし。
「しょ、衝撃波ですか? 小賢しいですね」
ニムがそう言って、衝撃波を受け止める。
彼女はロックアーマーを発動している。
よほど高威力の攻撃でない限り、彼女の防御を突破することはできない。
そのスキに、ミティがアカツキの背後に回り込む。
彼女がハンマーを勢いよく振り下ろす。
「ビッグ……ボンバー!」
ドゴン!
アカツキはかろうじて避けた。
しかし、衝撃の余波による岩の破片が彼を襲う。
「ぐっ…。なんて化け物たちだ。パワーもスピードも桁違い…。だが負けるわけにはーー」
「……はあっ!」
ユナが闘気を込めた矢を放つ。
ミティの攻撃の余波に怯んでいるアカツキのスキを捉えた、見事なタイミングでの攻撃だ。
「くっ!」
アカツキがかろうじてそれを避ける。
だが、ここまでの怒涛の連撃により、彼に大きなスキが生じている。
今がチャンスだ。
シュッ。
俺は”疾きこと風のごとし”で、アカツキに高速で接近する。
「ビッグ……バン!」
「ぐはあっ!」
アカツキが大きく後方に弾き飛ばされる。
ドンッ!
彼は大きめの木にぶつかって、止まった。
彼は体勢を立て直せていない。
そして。
「い、いきます! ゴーレムさん、パンチです!」
いつの間にか、ニムがゴーレムを生成していたようだ。
俺のビッグバンのダメージにより動きが止まっているアカツキに、ゴーレムがパンチを振り下ろす。
ドゴオン!
「ぐっ! がああああっ!」
アカツキが大ダメージを負う。
地面に大きなくぼみができ、彼が半分埋まったような状態になる。
彼は身動きしない。
どうやら、気絶したようだ。
「さて。総隊長は撃破した。俺たちの勝ちだな」
「そうだね。まだ残党はいるけど……」
アイリスがそう言って、相手の兵士たちを見る。
「アカツキ総隊長!」
「う、うそだろ……」
「おのれミリオンズめぇ…」
相手の兵士たちがそう言う。
動揺が広がっているようだ。
「まだやりますか? 相手になりますよ」
「そ、そうですね。まだ暴れたりませんし」
ミティとニムがそう言って、一歩前に出る。
「うっ! た、退却だ! 退却ー!」
相手の兵士の1人が、そう叫ぶ。
それを皮切りに、みんなが退却を始める。
「ア、アカツキ総隊長……。ひっ!」
相手の兵士がアカツキを回収しにきたが、俺たちがひと睨みしたところ、諦めて退散していった。
せっかく総隊長を倒したのだ。
悪いが、捕虜とさせてもらおう。
何かの交換条件に使えるかもしれないしな。
ミティたちが倒した隊長格たちも、できれば捕虜として確保しておきたいところだ。
俺たちは、急いで隊長格たちの身柄の確保に向かうことにする。
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