防壁の補修作業中。
作業員たちをタコの魔物が襲った。
俺はその魔物――アビス・オクトパスに向けて近づいていく。
「おいおい、兄ちゃん! 死に急ぐんじゃねぇぞ!!」
リーダー格の男が叫ぶ。
その気持ちは分かるが……。
「なぁに。大丈夫、心配するな」
俺はそう言いながら、アビス・オクトパスへさらに近付いていった。
「っ! じ、人族の兄ちゃん……」
「助けてくれぇ!!」
「いや、それは無謀だ! どうにかして救援を呼んでくれ!!」
俺が近づいてくることに気付いた作業員が叫ぶ。
俺は彼らに視線を向け、言う。
「少し待っていろ」
「キュルルル……」
アビス・オクトパスは触手を伸ばして攻撃する。
しかし、その狙いは甘い。
俺は難なく避けると、逆に踏み込み――拳を振った。
「はっ!!」
「ギュイイイッ!?」
俺の拳がアビス・オクトパスの胴体にめり込む。
その一撃は確かなダメージを与えたらしい。
「おおっ! 触手が緩んだ!!」
「助かったぜ!」
触手に捕らえられていた作業員たちが解放される。
しかし、代わりに――
「ギュルルルッ!!」
「むっ!?」
アビス・オクトパスは、その触手で俺の腕を掴んだ。
そして、一気に振り回してくる。
「くっ……!」
自らの体を中心にして、アビス・オクトパスは回転する。
その勢いは凄まじく……。
「ぐおおおぉっ!?」
「ああ! 人族の兄ちゃんが振り回されているぞっ!!」
まるでジャイアントスイングだ。
アビス・オクトパスの勢いは強く、俺は抵抗できない。
俺はスキル『水泳術』『水中機動術』『潜水術』などを取得したとはいえ、まだまだ水中戦闘に慣れていないからな……。
「ギュルルルッ……!!」
「ぐっ……! ぬぅんっ……!!」
アビス・オクトパスは俺を投げ飛ばす。
俺は水中で体勢を立て直すと、何とか踏みとどまった。
「……肉弾戦はあまり有効じゃないな」
俺はそうつぶやく。
タコの体は柔らかめだ。
強く殴りつけても、ぼちぼちぐらいのダメージしか与えられないだろう。
となると魔法だが……。
海中では、火魔法の発動は難しい。
水魔法も微妙だし、雷魔法は周囲一帯に影響しそうで使いにくいな。
さて、どうするか……。
「ギュルルッ!」
アビス・オクトパスが俺に向かってくる。
そして、触手を伸ばして攻撃してきた。
さっきよりも早い。
本気を出してきたようだな。
俺は頑張って回避しようとするが……。
「ぐぬっ……」
避けきれず、触手に捕まってしまう。
捕らえられたのは左足だ。
そこの拘束だけが残っているので、どうしても動作が遅れてしまう。
「人族の兄ちゃん! くそっ、どうしたら……!!」
「何とかして助けるんだ!! このままじゃやべぇぞ!?」
リーダー格の男が叫ぶ。
作業員たちも不安そうだ。
「ギュルルッ……」
アビス・オクトパスは俺を掴んだまま、また回転しようとする。
その時だった。
不意に体が軽くなったように感じた。
「ん? ……あ」
俺は気付く。
左足の拘束が解けていることに。
アビス・オクトパスが掴んでいたのは、俺の左足だった。
結果的に、奴は俺の拘束を外す手伝いをしてしまったことになる。
「やれやれ……。エリオット王子に無断で外すことは、良くないんだがな。戦闘中の出来事であれば仕方ない」
俺はそう言いながら、久しぶりに全解放された体を確かめる。
この状態なら、巨大タコぐらいはどうとでもなるだろう。
さっさと討伐してやることにしよう。
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