俺は結界魔法の補助を担当している。
最初は様子見のため、軽い補助に留めた。
感覚を確かめた俺は、補助出力を上げることを申し出る。
その方が効率的だろう。
「再確認だが、全力で補助してしまって問題ないのだな?」
「ああ。私はこれでも分隊長だからな。それに、他の者も精鋭揃いだ。少しばかり強い補助をされたところで、結界魔法の発動に支障はでない」
「分かった。それなら、いくぞ!」
俺は全身に力を込める。
そして――、力を込めて魔力の補助を開始した。
「ぐうっ!?」
分隊長が顔を歪める。
結界魔法の維持をほんの一瞬だけ忘れ、こちらに振り向いた。
「な、なんだこの出力は……!?」
彼女は叫ぶ。
あれ?
まだ全力じゃないんだけど……。
「そ、想定外だ! これほどの出力は想定していなかった!!」
「そうなのか? マズイな……」
発動者の制御力を超えるほどの補助をされると、魔法が暴発するリスクがある。
レースゲームでダッシュアイテムを豪快に使った結果、コースアウトして壁に激突した……みたいな事故が発生するわけだ。
「んっ! はぁ、はぁ……。な、何とか大丈夫だ……。想定外ではあるが、ギリギリ何とかできる……」
分隊長はそう言うが、あまり大丈夫ではなさそうだ。
額に汗をかいているし、身体も小刻みに震えている。
明らかにやせ我慢である。
このまま補助を続けるわけにはいかないだろう。
「無理するな。一度止めるぞ」
「だ、だが……! それでは、せっかく練り上げた魔力が霧散してしまう……」
「まぁ、それはそうだが……」
大規模な魔法は、魔力を十分に練り上げてから発動させる必要がある。
途中で発動を取りやめた場合、それまでに構築した魔力が霧散し、消費したMPが無駄になってしまう。
分隊長が躊躇しているのはその点だろう。
いわゆる、もったいない精神だな。
「無茶して暴発させたり怪我したりしたら、そっちの方が困るだろう? ずいぶんと苦しそうじゃないか」
「い、いや……。これは別に、苦しいわけでは……。どちらかというと、その……ゴニョゴニョ……」
「ん? 今、何て言った?」
俺はそう聞き返す。
すると分隊長は、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「た、他者の魔力を補助として流し込まれると……体内の魔力回路が刺激されて……その……」
「うん?」
「き、気持ち良いのだ……」
「……ほう? なるほど、そういうことか」
この世界の人間の体には、魔力回路がある。
地球人で例えれば、全身を巡る血管のようなものだろうか。
それを利用して魔法を発動したり身体能力を強化したりするわけだが、どうしても凝りや詰まりが生じてしまう。
そこに他者から魔力補助を受けると、魔力回路が刺激され、快感を覚えるわけだ。
もちろん、快感といっても変な意味じゃない。
凝った肩をマッサージしてもらったときに感じるような、血流がよくなって体がポカポカするようなアレである。
「そういうことなら、問題なさそうだな。よし、さらに補助出力を上げていくぞ!!」
「ちょっ!? ま、待って――ひぎっ!? おぉぉぉぉっ!?」
俺はさらに補助出力を上げる。
分隊長が身体を仰け反らせ、ビクビクと痙攣し始めた。
顔が真っ赤になっており、呼吸も荒い。
もちろん変な意味ではなく、肩凝りがほぐれたときのようなアレで気持ち良くなっているのだろう。
彼女は俺の補助を受け、他のメンバーと共に見事な結界魔法を発動させた。
「はぁ、はぁー……。も、もっとぉ……」
「うむ。この調子で、どんどん結界魔法をかけていくぞ!」
俺は引き続き、魔法師団の作業を手伝っていく。
何もやましいことはない。
全てが順調だ。
この調子なら、無事に人魚の里から解放される日も近いだろう。
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