俺は狂戦士を聖魔法で浄化した。
その後も、引き続き重傷者たちを治療していく。
「ふぅ……。とりあえず、これで一通りは終わったな」
最後の一人を治療し終えた俺は、一息つく。
生死の境をさまよっているような者は、もういない。
ひと安心だ。
俺とリリアンは、治療岩の職員用休憩室に向かう。
「ナイトメア・ナイト様……! お見事なお力でした……!!」
休憩室に入るや否や、リリアンが感激した様子で言った。
彼女の目には涙が浮かんでいるように見える。
「いや、俺だけの力じゃないさ。リリアンの協力があってこそだ」
俺はそう言った。
チート持ちの俺とはいえ、1人ではできることに限界がある。
「そんなご謙遜を……!」
リリアンは首をブンブンと横に振った。
可愛らしい反応だ。
(当初はどうなるかと思ったが……)
俺はホッと胸をなでおろす。
人族への偏見が強めのリリアン。
そんな彼女も、今やすっかり俺への信頼を深めてくれたようだ。
「ナイトメア・ナイト様は……どうしてここまで慈悲深く、お優しくなれるのですか?」
ふと、リリアンがそんな問いを投げかけてきた。
「ん? どうした急に」
俺は首を傾げる。
すると、彼女は慌てたように手をブンブン振って弁解した。
「も、申し訳ありません! お気を悪くされましたでしょうか!?」
「いや、別に構わないが……。どうしてそんなことを?」
俺の問いに、リリアンは答える。
「人族の方にとって、人魚の里は縁もゆかりもない場所。それに、私を含め失礼な態度を取る者も多いです。それなのに、あなたは私たちのためにここまで尽くしてくださる。なぜ、そこまでしてくださるのか……不思議に思ったのです」
「ふむ……」
確かに、彼女にとっては不思議に思えるかもしれない。
だが、俺にとっては当たり前の行動だ。
……ミッション?
人族と人魚族の融和?
そんなのはついでの目的だ。
「美女を助けるのに、理由なんているのか?」
俺は堂々と胸を張り、答えた。
すると、リリアンは一瞬固まった後――
「ふぇっ!?」
素っ頓狂な声を上げた。
そのまま、黙り込んでしまう。
(はて……?)
俺は首を傾げる。
何かマズイことを言っただろうか?
(ふむ……。もしかすると、リリアンには恋人がいるのかもな。いや、既婚の可能性すらある)
そんな考えに至った。
考えてみれば当たり前のことだ。
リリアンは、若くしてこの治療岩の責任者を務めている。
しかも美人だ。
そんな彼女に恋人がいても、何ら不思議はないだろう。
(一応、聞いておくか)
そう思った俺は、リリアンに話しかける。
「ちなみにだが……。リリアンは恋人とかいるのか?」
「へ!? あ、あの……えっと……!」
リリアンは顔を真っ赤にして、うろたえている。
俺は心配になってきた。
体調でも悪いのだろうか?
「どうした? 急に体調でも悪くなったのか?」
「い、いえ! そういうわけでは……! あ、あの……。私は……」
リリアンはしばらくモジモジとしていたが……。
やがて意を決したように言った。
「私に……恋人はいません! フリーです! 恋人募集中です!!」
「そうか。良かった」
俺はホッと胸を撫でおろす。
一安心だ。
「ふふふ……。では、さっそく仲を深めよう」
俺はリリアンに歩み寄る。
「ふぇっ!? あ、あの……!?」
リリアンは動揺した様子で後ずさるが、すぐに壁に背中をぶつけた。
もう逃げられないだろう。
そのときだった。
「ここにナイトメア・ナイト殿がおられると聞いた。相違ないか?」
休憩室の入口の方から、声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはエリオット王子がいたのだった。
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