「……夜叉丸さんと雷轟さんに頼んである。安定感と足腰の強さを重視した。あとは二十人ぐらいの侍さんたちと部隊を編成するつもり……」
その声は少しだけ硬く、言葉の端々に彼女なりの戦略と、背負った責任の重みが滲んでいた。
名を挙げた二人の人物に、思わず眉をひそめる。
「おいおい。夜叉丸はいいとして、雷轟は大丈夫なのか?」
俺の言葉には無意識の警戒が混じっていた。
夜叉丸の名は、まだ納得がいく。
桜花七侍の中でも比較的若手だが、腕前もそこそこで、性格に癖も少ない。
かつて桔梗に敗れたという事実こそあるが、彼はそれを個人的な怨恨には変えていない――少なくとも表面上は。
冷静さと判断力、そして必要なときには自己を抑えるだけの節度を持ち合わせている。
補佐として選ぶのは悪くない手だろう。
だが、雷轟となると話は別だ。
彼は雷鳴流の師範であり、武神流にとっては因縁深い存在。
雷鳴流の門下生と共に武神流道場を襲撃し、早雲をフルボッコにした上、桔梗を連れ去って自分のものにしようとした。
あの時の彼の瞳にあったのは、まぎれもない支配欲と、身勝手な欲望だった。
その行動には瘴気の影響があったようだし、今の彼にその責任を全て取らせることは酷だ。
しかし、それでも――容易に忘れられる過去ではない。
「……大丈夫。今の私なら負けない。それに、彼はもう反省してる。そうでしょ……?」
桔梗の瞳がまっすぐ俺を射抜いた。
そこには不安も、ためらいもなかった。
かつての彼女なら、こんなふうには言えなかっただろう。
だが今の桔梗は、自らを律し、己の力を信じている。
そして――俺への信頼も。
「確かにそのはずだが……」
俺には『加護付与』という便利すぎるチートスキルがある。
その副産物として、周囲の人間の『忠義度』を測ることができるのだ。
雷轟の数値は30以上――決して高いとは言えないが、少なくとも裏切りを企てるラインではない。
桔梗に害をなすことは、すなわち俺に背くことと等しい。
それを理解しているのならば、雷轟も軽率な行動には出ないだろう。
「桔梗は気にしないのか?」
俺の問いは、念押しのつもりだった。
彼女自身の心に、少しでもわだかまりが残っていないかを確かめたかったのだ。
すると、桔梗はほんの少し笑みを浮かべながら、静かに首を振った。
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