「ふはははは! どうだ!? 強靭! 無双! 最高! これこそが、おうどん湯の巨麺兵だ!!」
「くっ……! やはり……付け焼き刃では、対応しきれませんか……!」
リーゼロッテの唇がわずかに震える。
氷のように冷たい声の奥に、確かな焦燥がにじんでいた。
彼女の専門は水魔法。
即興でグラキエス・うどんロボを生成したのは見事だが、その操縦には難があった。
「思いつきで慣れないことをして、失敗しましたわ……!」
関節が軋む音が、通信機越しに彼女の耳へ届く。
冷気で強化された部品たちが、音もなく、しかし確実に悲鳴を上げていた。
「くっくっく……これで終わりだ! 【煉獄乃出汁・夏の陣】!!」
勝利の確信に満ちた琉徳の嗤いが、戦場全体にこだました。
その音は空気を震わせ、あたりに立ち込める冷気を切り裂くように響き渡る。
顔に浮かぶのは、もはや戦士の緊張ではなかった。
硬く結ばれていた口元にはゆるんだ笑み、鋭い眼光にはもう恐れも焦りもない。
ただ、そこにあるのは完全なる優越感――あたかも己が麺帝として戴冠の時を迎え、大和全域にその名を刻む王者であるかのような、誇り高くも傲慢な表情であった。
「紅乃を再起不能にした今……余所者のお前さえ排除すれば、この華河藩のうどん界は俺のものだ! 他藩にもどんどん侵攻して、うどんの恐ろしさを知らしめてやる! 全ての愚民は、うどんの前に跪くのだ!! ふははハハは!!」
その宣言は、ただの野望ではない。
狂信にも似た執念と、異常なまでの支配欲を滲ませていた。
地を蹴るたびに響く機体のうなりが、琉徳の感情を代弁するかのように唸りを上げる。
その言葉に、リーゼロッテの顔が微かに曇る。
瞬間、彼女の表情がかすかに揺れた。
冷えた空気の中で、その眉がぴくりと震える。
「……そんなの……うどんじゃありませんわ」
絞り出すような声は、しかし確かに届いた。
耳元でささやくように、しかし胸の奥まで鋭く突き刺さる。
その一言に、戦場の空気が微かに変わる。
「何……?」
琉徳の声がわずかに揺らぐ。
疑念。
いや、ほんの一滴の恐れがその声に混じっていた。
彼の眼前で、リーゼロッテの操る氷のうどんロボが、静かに一歩前へと進み出る。
その足取りはあまりにも静かで、地を踏む音すら聞こえない。
けれど、確かに大地が凍りついたような緊張が走った。
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