タカシがユナやトミーを見掛ける少し前――。
「うわああぁっ! ゴブリンだーっ!!」
「キャーッ!」
「に、逃げろー!!」
リンドウ北部は混乱に陥っていた。
北側からゴブリンの群れが押し寄せてきたのだ。
「クソが……! 好き勝手に街を荒らされてたまるか!!」
「女子供は逃げろ! 俺たちが時間を稼ぐ!!」
街の一般住民が、ゴブリンの群れに立ち向かう。
戦闘の心得がなくとも、数人がかりで単独のゴブリンが相手ならばどうにかなる。
しかし相手の数は想定以上に多かった。
「くそっ! マズイぞ……」
「数が多すぎる!」
「誰か……!!」
「だ、誰かー!!」
彼らの叫び声は空しく響く。
もうダメだ……と諦めかけたその時だった。
「小僧どもぉ! 死に急いでんじゃねぇぞ!! うおおおぉっ! 【ジェットキャノン】!!」
「俺たちが来たからには、ひとまず安心ですよ。――【サウンドブレイド】!!」
ゴブリンの群れに、2人の男が突撃した。
リンドウ第一採掘場統括のブギーと、第二採掘場統括のジョーだ。
少し遅れて、1人の少女と大量の鉱山奴隷が到着する。
「今回のゴブリンは数が多いですね……。みなさん、出番ですよ! 活躍すれば、1週間のおかず大盛りサービス!! さぁ、張り切っていきましょう!!」
「「「おおっ!!」」」
少女――第三採掘場統括のケフィが声を張り上げる。
それに呼応するかのように、数十人の鉱山奴隷が雄叫びを上げる。
彼らはかつてタカシが捕らえた盗賊団のメンバーだ。
奴隷契約によって縛られた上で、ケフィたちによって厳重に管理されつつ鉱山で働いている。
そして今回のような不測の事態では、防衛戦力にもなる。
「来た! 鉱山戦力が来てくれたぞー!!」
「ブギー頭領、任せましたぜ!」
「ロッシュ様、素敵ー!」
「どうか、街を守ってくれ!!」
ブギー頭領やジョー副頭領の実力は言わずもがな。
その他の鉱山奴隷も、過酷な労働で鍛え抜かれた強靭な肉体を持っている。
元は不法者であり戦闘の心得もある。
その確かな実力から、鉱山奴隷とはいえ一部の住民から支持を集めているほどだ。
「ぐおっ!? ゴブリンに混じって……ホブゴブリンがいやがる!!」
「肉体労働で疲れた体には、少々キツイ相手ですね……!」
「ギャギッ!?」
「ゴブッ?」
鉱山戦力がゴブリンの群れと戦っていく。
一般住民が苦戦していた下級ゴブリンは対処可能。
しかし、中級種であるホブゴブリンには少し苦戦している様子だった。
そんな鉱山戦力に、援軍が到着する。
「ハッハ! 治安維持隊が来たか!!」
「よかった! 彼らに任せましょう!」
「了解です! 今からみなさんは、街の住民の保護を優先して下さい!」
「「「おう!!」」」
援軍は、タカシがリンドウに配置した治安維持隊だ。
それを見たブギー、ジョー、ケフィの3人は、素早く判断した。
鉱山で鍛えられた体があるとはいえ、戦闘は専門ではない。
純粋な戦力で言えば、治安維持隊の方が上だ。
「何とか間に合って良かったぜ! さぁ、被害を最小限に! 魔物どもの無力化につとめろ!!」
「「「はいっ!!」」」
リンドウ治安維持隊の隊長であるヤックルが声を張り上げる。
彼を筆頭に、治安維持隊は街の防衛に動き出す。
「ふん。こいつら……ただの群れじゃねぇな? ゴブリンに混じってホブゴブリン……そして、ゴブリンジェネラルまでいやがる!!」
「手応えがありますね……」
「油断は禁物ですよ!」
治安維持隊のメンバーは、それぞれタカシやヤックルによってスカウトされた者たちである。
一部の新入りを除き、ほぼ全員がタカシの加護(微)の恩恵を受けている。
しかしそれでも、ゴブリンジェネラルの相手は少しばかり厳しい。
そこに――
「オラオラ! このオレまで来てやったぜ! オレを満足させる魔物が来たみたいだなぁ!!」
1人の女性が駆けつける。
彼女はリンドウ治安維持隊の副隊長である。
「うおー! キサラ副隊長だ!!」
「個人の戦闘能力なら、リンドウにおける最強格……!!」
「副隊長がヤックル隊長に加勢してくれるぞー!」
「これでゴブリンたちも終わりだ!!」
住民から歓声が上がる。
副隊長キサラは、元盗賊だ。
元冒険者のヤックルやその他のメンバーとは、経歴が違った。
しかし、タカシの加護(小)の恩恵を受けたその実力は折り紙付きである。
「ゴブゥッ!?」
「ガギャッ!?」
ゴブリンジェネラルとホブゴブリンたちが、キサラやヤックルの連撃によって沈んでいく。
魔物騒動が一気に沈静化していくかと思われた、その時だった――
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