「ほう……。あれが桜花城か……」
俺は呟く。
ここは桜花藩の城下町だ。
その中心部には立派な城がそびえ立っていた。
それに、ただ立派なだけではない。
「どこから入ればいいのか、検討もつかねぇぜ……」
流華がため息を吐く。
城をぐるりと囲む城壁。
それはとても高い。
城に入るにはあの高い壁を登る必要があるようだ。
「ええっと、正面には入口がありますけど……。あそこからどうにかして……」
「難しいところだな。城門を超えるのが簡単か、正面突破が簡単か……」
俺が呟く。
さすがに正面突破は無謀だろう。
だが、城壁を超えるのも至難の業だ。
ま、今日はただの視察だから、そこまでする必要はないが……。
「よし、ちょっくら偵察に行ってくる」
「え? 高志様?」
「無謀だぜ、兄貴。もし怪しい奴だって目をつけられたら……」
「大丈夫だって。そんなヘマはしないさ」
俺はそう言って、一歩前に出る。
そして、静かに宣言した。
「いくぞ……! 【インビジブル・インスペクション】……!!」
次の瞬間、俺の姿は掻き消える。
「ええっ!? 高志様が……消えた!?」
「兄貴……いったいどこに!?」
紅葉と流華が目を見開いて驚いている。
彼女たちはあたふたと周囲を見回している。
「ここだよ」
「ひゃん!?」
「うおっ!? 兄貴、いつの間に……」
背後から声をかけると、二人は面白いぐらいに驚いた。
俺はニヤリと笑って説明する。
「俺は気配を隠匿するのが得意でな。その技術と影魔法を組み合わせれば、こうして姿を消すことができるんだ。どうだ、すごいだろ?」
「は、はい……」
「やっぱり兄貴はすげぇぜ!!」
紅葉は控えめに頷き、流華は大きく拍手する。
二人ともかなり驚いているようだ。
「で、でも……。それならそうと言ってください! 怖いじゃないですか!」
紅葉は頬を膨らませて抗議する。
とても可愛い。
「悪いな。ちょっと驚かせたくなって」
「心臓が止まるかと思いましたよ……。もう……」
「それで、兄貴? どこに偵察に行くんだ?」
「侍たちの詰所――『侍所』さ。ほら、あそこに建ってるだろ?」
俺は桜花城手前の一角を指差す。
そこには、城ほどではないが立派な建物があった。
「侍所だって?」
「ああ、あそこには警備の侍たちが詰めている。城内勤務の者ほどではないだろうが、それなりに身分の高い侍たちだと思う。多少の情報は持っているはずだ。それに、いずれ城に入るにあたり警備兵の実力を事前に見積もっておきたい」
繰り返しになるが、今はまだ情報収集の段階だ。
大事にするつもりはないし、侍所の者たちと戦うつもりもない。
しかし、俺の眼力をもってすれば見るだけでもおおよその戦闘能力は測ることができる。
「なるほど……。確かにそうですね!」
紅葉がポンと手を打つ。
流華も納得した様子で頷いている。
「よし、じゃあ改めて……行ってくる」
俺はそう言って、『侍所』に向かって歩き出すのだった。
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