「――【エリアヒール】」
俺を中心に広がった癒やしの光が、騎士たちを癒やしていく。
「……ん? ここは?」
「……いったい何があったんだ!?」
「俺、突然首筋に衝撃を受けて……」
「そうだ! みんな、無事か!」
光に包まれた騎士たちが、次々と目を覚まし出す。
「よう。どうやら無事に目覚めたようだな」
「おお……。ハイブリッジ卿。これは、貴殿が俺たちを助けてくれたのですか?」
豪槍くんがそう尋ねてくる。
「そうだ。しかし、何があったんだ?」
もちろん、何があったのかを俺は知っている。
時魔法で加速したイリーナによって、彼らは気絶させられたのだ。
しかしここは、敢えて知らないふりをして訊ねておくことにした。
「それがよく分からないのです。尋常ではないほど素早い何者かに背後から襲われ、気を失ったようで……」
「そうか。まぁ気絶させられただけのようだし、命に別状はないだろう。今後は謎の襲撃者にも対応できるように、しっかりと訓練しておくことだ」
「はい。ご助言、ありがとうございます。我ら一同、肝に命じておきます」
俺の言葉を聞いた騎士たちは、神妙な顔つきで頭を下げてくる。
とりあえずは、俺のアドバイスに従ってくれるつもりのようだ。
俺としては、今回の襲撃について彼らから追及されなくてホッとしている。
襲撃者の正体がイリーナであることがバレたら、いろいろと面倒だからな。
「さて。噂程度に知っている者もいるかもしれんが、俺たちハイブリッジ男爵家は領地に戻ることになった」
「とうとうですか……。ハイブリッジ卿からのご指導はとても有意義なものでした。この経験を糧にして、これからもより一層励んで参りたいと思います」
豪槍くんが代表して言う。
他の騎士たちも皆、同じように意気込んでいる様子だ。
「ああ。今後も鍛錬を怠らず、精進するように。お前たちの働きは、必ずサザリアナ王国の力となるだろう」
王都騎士団の総戦力はかなりのものだ。
ハガ王国のような小国や、ハイブリッジ男爵領のような一領地などは簡単に捻り潰せるだろう。
それを大きく支えているのは、ベアトリクス第三王女や『誓約の五騎士』イリーナを始めとする、大隊長の面々だ。
俺の見た感じだと、大隊長は冒険者で言えばA~Bランク並の実力者が揃っているようだ。
現時点での俺やミリオンズの面々と同じくらいの強さだな。
レティシアを始めとする中隊長たちも強い。
冒険者で言えば、B~Cランクといったところだろう。
ハイブリッジ男爵家の配下の上位陣――『原初の六人』あたりと同格ぐらいかな。
あとは、御用達冒険者の雪月花もこれぐらいだ。
まぁ、騎士団・冒険者・警備兵はそれぞれ求められる能力の方向性が異なるので、一概に比較はできないのだが。
そして豪槍くん、豪剣くん、豪弓くんたち小隊長も決して弱くはない。
冒険者で言えば、C~Dランクといったところか。
ハイブリッジ男爵家の配下の中位陣と同格と考えている。
先日引き抜いた騎士見習いのナオミは、元々はEランク上位ぐらいの実力だった。
俺からの指導を受け続け、さらには加護(小)の恩恵を受けることで、その実力は飛躍的に上昇した。
今の彼女の実力は、王都騎士団の小隊長クラスと言っていいだろう。
あとは……非戦闘職ではあるが加護(小)の恩恵を受けているニルスやハンナもここに該当するか。
そう言えば、治安維持隊の隊長に任命したナオンもいたな。
彼女は王都騎士団の元小隊長だ。
まだ加護(微)の恩恵しか受けていないとはいえ、元々の実力が高い。
元騎士見習いのナオミと、元小隊長のナオン。
どちらも王都騎士団の出身だし、気が合うかもしれないな。
ナオミの配属先は治安維持隊にするか。
きっと上手くやっていけるだろう。
どことなく名前も似ているしな。
うんうん。
我ながら素晴らしい采配を思いつくものだ。
「あの! 少しよろしいでしょうか!」
「どうした? ええと、君は確か――ルシエラだったな」
俺は少し離れた所にいた少女騎士に声をかけた。
「はい! ルシエラです! どうか私を、貴方様の配下に登用していただけませんか?」
そう言って、勢いよく頭を下げるルシエラ。
「またその話か。申し訳ないが、ダメだ」
「な、なぜ?」
「先日の模擬試合で取り決めた通り、ハイブリッジ男爵家の登用するのはナオミちゃんだけだ。これでも、引き抜くための手続きに結構手間取ったんだぞ?」
末端の騎士見習いとはいえ、王都騎士団の将来有望な戦力を一領主が引き抜くのだ。
いくら俺がネルエラ陛下やイリーナ大隊長と懇意にしているとはいえ、『彼女を引き抜きたいです』『いいよ』で終わる話ではない。
模擬試合のあと、諸々の手続きを終えてから、ようやくナオミを引き抜ける許可が正式に下りたのだ。
さらにルシエラもとなると、骨が折れる。
まぁゴリ押しすればネルエラ陛下やイリーナ大隊長も無下にはしないだろうが……。
俺から彼らに大きな借りを作ることになってしまう。
「そ、そんな……」
「まぁ、そう落ち込むなって。頑張って鍛錬を積んでいけば、また会う機会はいくらでもあるだろう」
肩を落とす彼女に、俺はそう声を掛ける。
彼女が騎士見習いを卒業し、一般騎士あるいは小隊長にでもなっていれば、俺が彼女を引き抜く動機は大きくなる。
まぁその分、王都騎士団にとっての彼女の価値も大きくなっているので、引き抜き難易度も上がるのだろうが……。
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