さらに数日が経過した。
今日は6月4日だ。
俺がこの世界に転移したのが4月1日。
このゾルフ砦に来たのが5月上旬。
そしてガルハード杯の予選が始まるのが6月11日だ。
大会まで後1週間だ。
俺、ミティ、アイリスの3人は、メルビン師範の指導のもと闘気術と武闘の鍛錬を続けている。
模擬試合もよく行っている。
アイリスは俺やミティよりもはっきりと格上だ。
純粋な身体能力だけならば俺やミティが勝っているところもあるが。
格闘技術の差が大きすぎる。
また、アイリスは試合慣れしており、判断力に優れている。
闘気術も、出力はさほどでもないが、使い方がうまい。
アイリスに対する俺やミティの勝率は、2割以下だ。
ミティの武闘の成長は著しい。
メルビンからミティへの期待の視線が日ごとに強くなっている。
また、日々の冒険者稼業でもミティのパワーが少しずつ向上しているように感じる。
ステータス上の数値やスキルレベルの変化はないものの、たしかに成長している。
格闘技術はアイリスが上だが、腕力ではミティが上だ。
闘気もステータス操作の恩恵のおかげで、ミティが若干勝っている。
模擬試合ではアイリスが大きく勝ち越しているが、追いつくのも時間の問題ではなかろうか。
俺はというと、ミティよりも少し劣るぐらいだ。
格闘技術はやや俺が優位で、闘気は互角ぐらい。
一方で、腕力ではミティに大きな分がある。
模擬試合では、俺のミティに対する勝率は4割ぐらいだ。
ミティとアイリスは、けっこう仲良くなっている。
また、俺とアイリスもそれなりには打ち解けている。
3人で食事にいくこともある。
アイリスの忠義度は25ぐらい。
1か月間いっしょに訓練した割には少し低い気もするが、悪くはない。
まあ何か劇的な事件が起きたりもしていないしな。
午後はいつも通り、ミティと魔物狩りだ。
順調にファイティングドッグやワイルドキャットを討伐し、ゾルフ砦の冒険者ギルドへ戻る。
受付嬢に報告をしているときに、入り口の方からなにか聞き覚えのある声がしてきた。
「ふふん。ここの冒険者ギルドも結構にぎわってるじゃない」
「おう。観光ついでに、しばらくここを拠点にするのも悪くねェ」
「…………然り」
この声は。
懐かしい声だ。
振り返る。
ユナ、ドレッド、ジークの3人がいた。
彼らは3人で”赤き大牙”というパーティとして冒険者活動をしている。
この世界にきて10日目ぐらいにラーグの街で出会った人たちだ。
ともにラーグの西の森へ遠征し、ホワイトタイガーの討伐をすることになった。
俺がクレイジーラビットに誤って攻撃して窮地に陥ったとき、必死に俺を守ろうとしてくれたこともある。
信頼できる人たちだ。
ユナは10代後半の女性。
赤髪ロングのストレートで細身だ。
武器は弓をメインにしている。
最後にラーグの街で食事会をしたのが4月末だから、1か月ぶりだ。
1か月前の時点で、ユナは忠義度30を超えていた。
今改めて確認したところ、29だった。
少し下がってしまっているが、思ったよりは下がっていない。
武闘会や防衛戦でいいところを見せれば、50超えで加護付与の条件を満たすのも夢じゃないかもしれない。
この街にいつまで滞在予定なのかきいておかないとな。
ドレッドはマッスルなおっさん。
背が高く、腕が太い。
体格としてはギルバートに近いか。
大剣をメインにしているため武闘の実力はわからないが、冒険者としてはCランクでギルバートと同格だ。
ジークは前髪で顔を隠した青年だ。
全身を金属鎧で固め、剣と盾を扱う。
パーティのタンク役だ。
受付嬢への報告が終わる。
3人の方向へ歩き出す。
彼らもこちらに気がついたようだ。
「おう。だれかと思えばタカシじゃねェか」
「お久しぶりです、ドレッドさん。それにジークさんとユナも」
「ふふん。ひさしぶりね! タカシとミティもこっちにきていたのね。武闘会の見学かしら?」
「ああ。当初の目的は護衛依頼だったけどな」
正確に言えば、このゾルフ砦に来た目的はミッションの防衛戦への参加だが。
それを言うわけにもいかない。
「おう。俺たちも護衛依頼ついでに、武闘会を見ようと思ってよ。この時期は賑わっているし、息抜きにはちょうどいいぜ」
「…………然り」
確かに、ガルハード杯が近づくにつれて、少しずつ賑わいが増してきている。
武闘会が始まる頃には、ちょっとしたお祭りのような感じになるのかもしれない。
「ドレッドさんは武闘会には参加されないのですか?」
彼らは冒険者がメインだろうが、ドレッドの体格と身体能力があれば、結構いけそうな気がする。
「俺は何年か前に出たぜ。まあ勉強にはなったが、それほど武闘自体には興味がねェな。今回は出ねェぜ」
それはそうか。
ドレッドが武闘を研鑽したところで、メインは剣などを使っての冒険者稼業だ。
多少の参考にはなるだろうが、それならば冒険者の活動に精を出したほうがいい。
武闘会の上位入賞者には賞金が出るとはいえ、上位に入賞できるとも限らないしな。
俺やミティは武闘がまったくの未経験だったから、今回の大会に参加することにも意義がある。
しかしある程度武闘の経験を積んでしまえば、それ以上の経験はさほど重要ではないだろう。
それよりは冒険者稼業に直接的に役立つ、剣や魔法の技術を磨いたほうが良さそうだ。
「そうですか。私とミティはガルハード杯の予選に出ます。今後の参考になるかもと思いまして」
「おう。まあ参考にはなるだろうな。悪いことじゃねェ」
「ふふん。ガルハード杯はかなりレベルが高いわよ! ドレッドが出ても1回戦突破がギリギリぐらいじゃないかしら」
「うるせェ。俺は大剣がメインだからいいんだよ。それより、タカシ。闘気術は使えるのか? 使えねェと予選突破も厳しいぞ」
この口ぶりからすると、ドレッドは闘気術を使えるようだ。
さすがはCランクだ。
俺といっしょに行動していたときも、さり気なく使っていたのかもしれない。
「ええ。1か月ほど前から道場に入門して練習しています。私もミティも、闘気術の基礎は教えてもらいました」
闘気術レベル1までは自力だが、その後レベル3まではスキルポイントを消費して上げた。
「おう。1か月で習得するとはやるじゃねェか。剣といい魔法といい、やっぱりただものじゃねェな」
「ふふん。ミティの戦闘は見たことないけど、ドワーフだし力は強いのでしょう? これは期待できるかもしれないわね。予選を突破したら、2人に賭けるのも悪くなさそうね」
「…………健闘を祈っている」
その後も少し雑談と情報交換をして、別れた。
彼らもしばらくこの街に滞在するそうだ。
ガルハード杯でユナにいいところを見せないとな。
彼らの滞在期間中に、オーガとハーピィの侵攻があるかもしれない。
一応、一般的に流布している情報は話しておいた。
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