俺は建設中のリンドウ図書館を後にし、トリスタやリンのスキル強化も終えた。
これでもう、ラーグやリンドウで済ませておく用事は9割ほど終わったと言っていいだろう。
転移魔法陣を発動させるためのクールタイムも、あと1時間ぐらい待てば十分だ。
俺がヤマト連邦に連れて行くメンバーは、俺を除いて10人。
ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。
マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レインである。
この内、モニカとニムは既にオルフェスで待機中。
ミティ、アイリス、リーゼロッテ、レインとはラーグの屋敷で再会済み。
マリアとサリエは治療院で元気に働いていた。
蓮華とは、つい先ほどリンドウ図書館で会話した。
残るはユナだ。
彼女の現況を確認してからラーグの屋敷に戻れば、転移魔法陣のクールタイムがちょうどいい感じになるだろう。
「さて……。ユナはどこにいるんだ?」
ミティやアイリスの話だと、『蓮華とユナは西の森方面に出かけていった』ということしか分からなかったんだよな。
実際、蓮華とユナは途中までいっしょに行動していたらしい。
そして、リンドウ図書館で別れたと。
「たぶんだが、リンドウの街の視察や観光かな?」
俺が領主となってからは、ミリオンズが冒険者パーティとして活動することはやや少なくなっている。
そんな中、普段の過ごし方というものには個性が出る。
ユナはやや活発で自由人。
屋敷の庭に植えている木の上で昼寝をしたり、街の住民に無料で弓の指導をしたり、西の森で気ままな狩りをしたり、リンドウやその他の町村をぶらぶらと散策したり……。
基本的に自由だが、意外と面倒見も良い。
放っておいても、変なことはしないタイプだ。
「ふーむ。リンドウも順調に栄えて、住民も増えているな……」
俺はリンドウを歩きながら、独り言をつぶやく。
聖女リッカと温泉旅館に泊まったことがあったが、その頃よりも一回り発展しているように見える。
「立派な街並みだ。雲ひとつない快晴も相まって、実に爽やかだ」
俺は空を見上げる。
爽やかな風が気持ちいい。
「青い空、そして赤い……ん? 赤い……パンツ?」
俺が空を見上げると、ちょうど赤いパンツが視界に入ってきた。
……これは!?
このパンツは!!
「ユナ!?」
俺は思わず叫ぶ。
スカートをたなびかせながら空を駆けるのは、ユナだった。
彼女は赤狼族としての身軽さを活かし、屋根から屋根へと飛び移っていく。
「おーい! ユナー!!」
俺はユナを呼ぶが、反応はない。
彼女は焦った様子で、ただ駆けていく。
「何があった……?」
ユナは強い。
純粋な1対1なら、ミティ、アイリス、モニカ、ニムあたりには少し劣るかもしれないが……。
ユナにはファイアードラゴンのドラちゃんがいる。
その合わせ技の威力は凄まじく、それを込みで考えればミリオンズでも最強クラスだ。
そんな彼女が焦っているというのは気になる。
何か厄介な事態でも起きたのだろうか?
「これは、追いかけるしかないか。――ぶへっ!?」
俺はユナの後を追うため、走り出そうとする。
しかしその瞬間、後ろから誰かにぶつかられた。
「すいやせん! 急いでましてね……って、タカシの旦那!?」
「お前は……トミーじゃないか!」
「へい!」
振り返ると、そこにはCランク冒険者のトミーがいた。
彼とはラスターレイン伯爵領のルクアージュからの付き合いだ。
その場で俺が声を掛けた結果、ラーグに活動拠点を移してくれた。
そして今では、ハイブリッジ男爵家の御用達冒険者になっている。
「タカシの旦那にぶつかっちまうなんて、すいやせん。急いでるもんで……」
「いや、それはいいが……。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「走りながらでいいですかい? ――実は、リンドウの北部から魔物の群れがなだれ込んで来たらしいんすよ!!」
「な、なんだって!?」
魔物の群れが街中に入ってくる……。
なかなかのピンチだ。
かつてはラーグの街でも似たようなことがあり、モニカやその父ダリウスが営むラビット亭が大打撃を受けた。
リンドウは急速に発展しているが、その反面で外縁部の防衛は薄い。
魔物がなだれ込んでくるリスクは常にある。
「分かった、俺も行くぜ!!」
問題は、迅速に対応できるかどうかだ。
たまたま居合わせたユナやトミーが駆けつけようとしてくれているのは心強い。
それに、この街にはその他にも戦力がいるはずだ。
「少し急ごう! ――【レビテーション】!!」
「お、おおっ!? こりゃスゲェっすね!!」
俺は重力魔法でトミーと共に浮く。
こうした方が最短距離で行けるし、単純な速度も上がる。
俺はトミーと共に、現場へ急行するのだった。
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